合同会社から株式会社に変更するメリットと手続き・費用について

この記事では合同会社が株式会社に組織変更するメリットと、組織変更する際の手続きについて解説します。

会社組織の変更手続きは手続き開始から終了まで通常1.5ヶ月から2ヶ月程度掛かります。場合によっては、専門家である司法書士、行政書士等のサポートも得て、連携しながら進めて行く必要があります。

そのため、事前に手続き内容を把握したうえでスケジュールを立て、手続きに漏れやミスがないよう、堅実に進めていくことが大切です。

最初にあらためて株式会社と合同会社、ぞれぞれの特徴や違いについておさらいしておきたいと思います。

株式会社の概要

株式会社は、株式を発行して投資家(株主)から資金を調達し、その資金で事業活動を行う会社組織を言います。

また株式を上場している株式会社は証券取引所を通じて誰でもその株式を売買できます。

株式会社の役員は、株主が決議すれば、外部を含めて誰でも取締役や代表取締役(社長)になれますし、株主はそれぞれ持っている株式数に応じて一定量の議決権を行使でき、その結果多くの株式を持っている方の意向が株式会社の経営では通りやすいのが特徴です。

合同会社の概要

一方、合同会社は持分会社とも呼ばれ、その仕組み上、会社設立に当たりそもそも株式は発行せず、設立時の出資者だけが経営者(業務執行社員)になれます。

また、合同会社の出資者は、その出資額に関わらず、対等の議決権を持つことができるので、株式会社に比べて利益の配分や役員の権限を自由に決められるのが特徴になっています。

なお、合同会社は2006年の会社法の改正で新しく作れるようになった会社組織なので、株式会社に比べてまだまだ利用実態が少ないのが現状です。

株式会社と合同会社の主な違いを比較すると以下のようになります。

株式会社合同会社
資本金の下限資本金に制限なし、1円設立可資本金に制限なし、社員が1名なら1円設立も可
必要な株主・社員人数1名以上1名以上
出資者名称株主社員
最高意思決定機関株主総会社員総会
出資者の責任範囲有限責任
(出資範囲のみ責任を負う)
有限責任
設立手続きの難度やや煩雑簡単
設立費用・登録免許税15万円
・定款認証費用5万円
・定款印紙代(紙媒体)の場合4万円(電子定款なら0円)
合計24万円(法定費用のみ、行政書士等委託手数料別)
・登録免許税6万円
・定款印紙代(紙媒体)の場合4万円(電子定款なら0円)
合計費用10万円(法定費用のみ)
経営主体取締役業務執行社員
利益配分比率各自出資比率により配分自由

その他、各組織形態の違いについて詳しく知りたい方は、合資会社や合名会社なども含めて比較した以下の記事をご覧ください。

株式会社と合同会社・合資会社・合名会社の違いとメリット・デメリット

株式会社と合同会社・合資会社・合名会社の違いとメリット・デメリット

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合同会社から株式会社へ組織変更するメリット

株式会社、合同会社の違いが分かったところで、次は合同会社から株式会社へ組織変更するメリットについて説明していきます。

合同会社は株式会社に比べて少ない費用で設立でき、かつ利益の分配や権限授与の自由度が高いことから、今では多くの中小企業で取り入れられ活用されています。

しかし一方で、会社経営が軌道に乗り、会社としてさらに事業拡大をしたくなっても、合同会社の特質上、人の採用や資金調達の面などでうまく対応できないことも多く、そのような場合にはどうしても対策を考えざるを得なくなってきます。

合同会社から株式会社に組織変更することで、業容拡大に即した経営体制が取れるようになります。

以下の4点が合同会社から株式会社へ組織変更したときの主なメリットです。

取引先、銀行等に対する信用度が増す

合同会社は2006年にできた新しい会社形態なので、会社組織としての歴史も浅く、社会的な認知度がまだ高くないのが実態です。

そのため依然としてマイナーなイメージが強く、新しい取引先から不安に思われることもあります。

一方株式会社は、すでに日本社会に深く浸透している会社形態であり、株式会社を名乗っているだけでも取引先や銀行等に対する信用度が増すメリットがあります。

さらに合同会社の業務執行社員は、たとえその会社の代表者であっても代表取締役を名乗ることはできませんが、組織変更で株式会社になると、堂々と代表取締役社長を名乗れるようになります。

これも組織変更によるメリットのひとつです。

株式上場ができる

合同会社は資金調達の面でも不利な点があり、そもそも株式がないので会社として成長しても株式上場ができません。

一方株式会社に組織変更すると、業容が拡大して組織も大きくなってくれば、将来的に株式を上場することが可能になってきます。

そうなると株式上場を通じて多額の経営資金を獲得することもできますし、もちろん株式上場そのもので、会社が社会的に大きな信用を得ることにつながります。

これは組織変更に伴う大きなメリットです。

エクイティファイナンスができる

前段でも説明したように、合同会社は株式上場ができないうえ、株式も発行していないので社会から幅広く資金を集めることができません。

合同会社が資金を集めるとすれば、既存の社員が追加出資するか、新たに社員を増やして出資してもらう等、調達方法が限られています。

しかし株式会社に組織変更することで、新株発行、転換社債型新株予約権付き社債など、株式の仕組みを使って社会から幅広く資金調達ができるようになります。

資金調達手段が増えるというのは会社組織にとっては大きなメリットです。

株式会社を新規で設立するより費用が安い

記事の最初に掲げた比較一覧表でも示したように、株式会社を新規で設立すると、一般的に設立費用は法定費用だけで20~24万円ほど掛かります。

一方合同会社の設立費用は6~10万円です。

一旦合同会社を設立して、後から株式会社に組織変更する場合、変更にかかる費用はおよそ法定費用は12万円程度であるため、最初から株式会社で新規設立するより、ほんの僅かですが費用を安くすることができます。

合同会社から株式会社へ変更する際の問題点は?

以下の2つが合同会社から株式会社に組織を変更する際の主な問題点です。

・債権保護の手続き*で最低限1ヶ月の期間が必要(手続きとして省略不可)
・債権者の一人でも組織変更に異議申し立てをしてきたら株式会社へ変更できない

※債権保護の手続きに関しては後述

合同会社から株式会社の変更手続き

ここからはいよいよ記事の本論である合同会社から株式会社の変更手続きについて解説します。

冒頭でも述べたように、変更手続きは開始から終了まで1.5ヶ月~2ヶ月程度掛かります。

経営者は全体の流れをしっかり押さえて、計画に沿って漏れなく確実に手続きを進めていく必要があります。

以降で説明する「組織変更計画書」「債権者への催告」「登記申請」などの各種書式については、法務局のホームページに全て例示されていますので、参考にするとよいでしょう。

【STEP1】組織変更計画書の作成

合同会社から株式会社へ組織変更するに当たり、まず組織変更計画書を作成しなければなりません。
組織変更計画書はこの手続きの基本となる書類であり、株式会社に変更後の内容が全て書かれています。
組織変更計画書の主要記載必要項目は以下の通りです。

・株式会社の商号、本店所在地、目的、発行可能株式総数
・定款で定める事項(事業内容等)
・取締役(株式会社役員)氏名
・株式会社へ変更した後の発行株式数
・効力発生日
など

【STEP2】合同会社社員に組織変更計画書の合意を得る

組織変更計画書の作成が終わると、次はその書類を合同会社の社員全員に回して内容の承認(合意)を得なければなりません。

ここで合同会社の社員とは、会社で働く従業員でなく出資の持分の権利を持つ社員のことを指します。
また合意の期限は「株式会社として効力が発生する日の前日まで」です。

同意の方法は、社員全員からそれぞれ個別に同意書をもらう方法と、1枚の紙に社員が連名で同意の意思を示した書類を作る方法があるので、会社にとって都合の良い方法を選んで作って下さい。

【STEP3】債権者保護の手続き

組織変更計画書の作成が終わると、次は組織変更の手続きで最も時間を要する手続きが待っています。
それが「債権者保護の手続き」です。

一般的に会社組織で作られた法人には債権者の存在があります。たとえば売掛債権を持つ取引先、融資債権を持つ銀行などです。

もし債権者に内緒で会社が組織変更を行ってしまうと、変更内容にもよりますが、債権者としての権利を阻害してしまうこともあります。

そのため組織変更を行うときには、事前に会社として債権者にその計画を通知して承諾を得なければなりません。

また合同会社に債権者がいるとき、債権者は会社組織の変更に対して異議を申し立てることができます。
したがって合同会社は組織変更に当たり、以下の2つの手続きを行って必ず「債権者保護」を図らねばならないのです。

官報公告

まず最初に会社組織を変更する事実を官報に最低1ヶ月以上公告・掲載することが必要です。

官報へ掲載すべき内容は以下の2つです。

・会社組織を変更して合同会社から株式会社にすること
・組織変更に関して、債権者は期間内に異議申し立てができること

官報への掲載申込みは以下リンクのようなの販売所経由で行うことができます。

会社の債権者が一人もいない場合でも、官報公告は必ず行う必要があります。

債権者への個別の催告

官報公告と合わせて合同会社は、会社として認識している個別の債権者に対して組織変更することを催告(相手方に対して一定の行為をなすよう請求すること)する必要があります。

そして催告の結果、もし債権者より異議申し立てがあったときには組織変更することはできません。

【STEP4】効力の発生

債権者保護の手続きを行い、その間(1ヶ月)債権者から異議申し立てがなかった場合、合同会社は組織変更計画書で当初に設定した予定日に株式会社に組織変更することができます。

ただし組織変更の手続きでは、登記することが組織変更の効力発生要件ではないため、登記を受け付ける法務局が開いていない土日祝日等を効力発生日とすることも可能です。

【STEP5】登記申請

合同会社から株式会社へ組織変更の効力が発生すると、いよいよ登記が必要になってきます。

ちなみにこの登記申請は組織変更効力発生日から2週間以内に終える必要がありますので忘れないようにして下さい。

組織変更の効力が発生すると、その株式会社を管轄している法務局で組織変更の登記申請手続きを行います
登記申請は以下の2つからなっており、必ず同時に行う必要があります。

・株式会社の設立登記
・合同会社の解散登記

登記申請後、法務局による審査があるため、手続きには1週間ほど掛かります。登記完了後は、株式会社の登記簿謄本(登記事項証明書)の取得ができるようになります。

なお、登記申請は、法務局のホームページを参考にしつつ、法務局の相談窓口などを有効に活用すればそう難しい手続きではありません。

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合同会社から株式会社の変更手続きに掛かる費用

合同会社から株式会社の変更手続きに掛かる費用は一般的には10万円程度です。
その内訳は以下の通りです。

・株式会社の設立登記の登録免許税:3万円
(資本金の1000分の1.5もしくは3万円のどちらか少ないほう)
・合同会社の解散登記の登録免許税:3万円
・官報公告費用:3万5千円〜4万円程度

※登記手続き等を司法書士に代行依頼したときは別途所定の報酬が掛かります

終わりに

合同会社から株式会社の変更手続きについて解説してきました。

これから合同会社から株式会社に組織変更することを検討している経営者の方の参考になれば幸いです。