大量の書類とこれでおさらば!?経理書類を電子保存して業務を効率化しよう

事業を続けていると取引に係る紙の書類がどんどんたまってきます。

とりわけ経理書類は税務及び決算関連で重要書類が多く、かつ法令で長期に渡って保存する義務があることから、その整理整頓の手間、保管場所の確保などが長年業務の効率化を妨げてきました。

そのため、この経理書類を電子データに置き換えて業務の効率化が図れるような法令のルールの整備が待ち望まれていました。

この現状を変えるため登場してきたのが『電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律』(以下、「電子帳簿保存法」といいます)という法律です。

電子帳簿保存法は、この紙の書類を電子データに置き換えて、整理、保管、検索できるために作られた法令です。ネット環境の高度化、業務のアウトソーシング化等により、ここ数年で一挙に規制緩和が進んできました。

今回の記事では、経理書類の電子保存に関連して、電子帳簿保存法とはそもそもどのような法律なのか、法令の規制緩和が進み紙の書類保存がどのように変わってきたのか、経理書類で電子保存ができる種類、電子保存にはどのような手続きが必要かについて解説します。

電子帳簿保存法は当初、1998年に作られた法律で、国税関連帳簿書類の全部または一部につき電子データの保存を認めた法律です。当然経理書類の電子データもこの範囲に含まれます。

その後、ネット環境の進展や企業の業務外注化等の動きに伴い何度も法改正が行われ、現在では紙媒体の書類の多くをスキャナやスマホ等でスキャンして電子保存されたデータ類が正式書類として認められるようになりました。

また電子保存したあとの書類(原本)も、かつては法令で7年間保存が義務づけられていましたが、2018年の電子帳簿保存法の改正後は原本を破棄しても良くなり、経理担当の大幅な業務の削減が進みました。

また同時に紙の書類を保存する場所も確保する必要がなくなったことから、今後は管理コストの軽減にもつながってくることが期待されています。

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経理書類で電子保存が可能なもの

それでは電子保存ができるようになった経理書類にはどのようなものがあるのでしょうか?

書類の利用目的でグループに分けると以下の3種類になります。

・帳簿書類
・決算関係書類
・その他の証憑類

また各グループの書類明細は以下の通りです。

【帳簿書類】
・総勘定元帳
・仕訳帳
・現金出納帳
・売掛金元帳
・買掛金元帳
・固定資産台帳
・売上帳
・仕入帳など

【決算関係書類】
・貸借対照表
・損益計算書
・その他決算に係る書類
・棚卸表など

【その他の証憑類】
・契約書(税務関係書類としては重要書類扱い)
・領収書(同上、重要書類扱い)
・見積書(税務関係書類としては一般書類扱い、以下同じ)
・注文書
・注文請書
・納品書
・検収書
・請求書など

国税関係書類に関しては、保存期間が法令で作成から7年間と義務づけられていますが、かつては保存の書式が紙媒体から電子データになっても原本の保存が同様に7年間となっていました。

2015年度以前は、電子保存は金額による制限があって、取引金額が3万円以上だと電子データで保存しても、同時に紙媒体による書類(原本)の保存も必要でした。

しかし、2018年の改正で、この金額制限が撤廃されたため、現状では取引金額に拘わらず、全て電子データとして保存することが可能になりました。

そのため契約書や領収書等の重要文書でも電子保存すれば原本を保存する必要もなくなり、現在では、帳簿書類及び決算関係書類を除く全ての国税関係書類が「紙媒体を必要としない」電子保存に対応していることになります。

電子保存をするにあたっての手続き

では経理書類の電子保存は、会社が機器や処理用アプリさえそろえれば自社判断で始めてもいいのでしょうか?

結論から先に言えば勝手に始めることは許されません。

経理書類の電子保存に着手するには、必ず事前に管轄する税務署に申請して税務署署長の承認を必要とします。

勝手に始めて途中で税務署に知られたら、それまでの取扱いを全て否定されたり、あらためて申請しても勝手に始めていたことで悪質と判断されたりして許可が下りない可能性もあります。

この章ではそのようなことがないよう、電子保存をするにあたっての必要な手続きやその際の条件などを解説します。

税務署長の承認

繰り返しになりますが、経理書類の電子保存は自社で勝手に始められるものではありません。

必ず事前に所轄の税務署に対して制度の適用を受ける旨を届け出て、許可を取る必要があります。

具体的には、電子保存に係る申請書類を準備して、電子保存を始める日の3ヶ月前の日までに、所轄税務署に対して提出する必要があります。

例えば、その年度の4月1日に電子保存を始めたいときは、前年の12月31日が税務署への提出期限となります。

なお、申請後、税務署からの直接的な承認通知はなく、電子保存の開始希望日までに税務署から特に連絡がなければ、「承認された」と見なして電子帳簿保存を始めることができます。

「いつまで経っても連絡がこない、落ちたのかも?」などと勘違いしないよう、手続きの流れを十分把握して対応するようにして下さい。

国税庁 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請

帳簿書類等を電子保存するときの要件

電子帳簿保存法の施行規則では経理書類の帳簿類を電子保存する際の重要な要件を定めています。

それが「真実性の確保」及び「可視性の確保」です。以下、保存要件の内容について詳細解説します。

【真実性の確保】

・訂正、削除履歴の確保(帳簿)

真実性確保の要件Ⅰは訂正、削除履歴の確保です。

この施行規則では、帳簿に係る電子データが保存後に訂正、または削除されたとき、その事実があとで履歴として、また内容とともに確認できるシステムの使用を求めています。

・相互関連性の確保(帳簿)

真実性確保の要件Ⅱは相互関連性の確保です。

この施行規則では、電子保存した帳簿に係る記録事項がその元となる関係帳簿と相互に関連していることがあとで確実に確認できることを求めています。

・関係書類等の備え付け

真実性確保の要件Ⅲは関係書類等の備え付けです。

この施行規則では、帳簿に係る電子データの保存と併せて、システム関係書類(システム概要書、操作説明書等)を会社内にきちんと備え付けしておくことを求めています。

【可視性の確保】

・見読可能性の確保

可視性確保の要件Ⅰは見読可能性の確保です。

この施行規則では、電子保存した帳簿に係るデータを税務署等の要請に合わせてPCの画面や書面にすぐに出力できる状態にしておくことを求めています。

・検索機能の確保

可視性確保の要件Ⅱは検索機能の確保です。

この施行規則では、帳簿に係る電子データについて、取引年月日、勘定科目、取引金額等、主要な項目でいつでも検索できる状態にしておくことを求めています。

国税庁 電子帳簿保存法上の電子データの保存要件

国税関係書類の電子データ保存にはタイムスタンプが必要

国税関係書類の電子データを保存するには必ずタイムスタンプが必要です。

経理書類含む国税関係書類を社内の誰かが悪意を持って改ざんしようとしても、紙媒体の書類だと跡が残りやすいので一定の歯止め効果があります。

しかし電子保存されたデータだと紙媒体の書類より改ざんが簡単にできるので、電子保存された後にそれが改ざんされていない正真正銘のデータであることを証明する必要があります。

かつて電子帳簿保存法では、その証明において「電子署名*」と「タイムスタンプ」という2つの方法が併用して使われていることが必須要件でした。

しかし、2016年の法改正で電子署名が不要となり、現在では「タイムスタンプ」のみで証明することができるようになりました。

ここでタイムスタンプとは、電子データに付与される発行日や時刻データのことで、タイムスタンプを発行するのは時刻認証局(TSA:Time-Stamping Authority)という組織です。

読み取り機器によりスキャンされ電子保存されたデータにタイムスタンプが付いていると、「そのデータがある時刻に確実に存在していたこと」及び「その時刻以降に不正な改ざんなどされていないこと」が証明されるので、正当な電子データとして安全に取扱いできます。

ちなみに電子保存している会社がタイムスタンプに対応した経費精算システムなどを利用していると、スマホ等で撮影した証憑に係る電子データにタイムスタンプが自動的に付与されるので、わざわざ時刻認証局(TSA)に申請する必要などなく処理が簡単で効率的です。

※電子署名とは指定認証局が発行する証明書のことで、電子データにこれがあれば「この電子署名は実在している人物が署名した正式なデータである」ということを証明しています。

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電子帳簿保存法2019年度変更点

2016年から2019年にかけて、ほぼ毎年のように電子帳簿保存法に関して改正が行われ、業務の効率化を図ろうとする企業にとって電子保存を行う環境がますます整ってきています。

新たに業務を開始した個人の電子帳簿保存等の承認申請書の提出期限の特例の創設

改正前の特例では、新設法人が会社を設立した日から3ヶ月以内に税務署に対して承認申請書を提出することで、電子帳簿の保存を行うことが可能となるルールで、個人事業主は含まれていませんでした。

しかし2019年度の改正により、この特例が個人事業主にも適用され、個人事業主が新しく事業を開始した場合、開始の日から2ヶ月を経過する日までに申請すれば、経理書類等について電子化できるようになりました。
(※個人事業主の電子保存に関しては、2019年9月30日以後の承認申請分から適用)

承認を受ける前に作成又は受領をした重要書類のスキャナ保存の可能化

さらにもう1点、2019年度の改正では、国税関係書類のうち、「重要書類*」と「一般書類」に関して、新たな改正点が示されました。

これまで重要書類については、電子保存承認以前の書類(過去分重要書類)をさかのぼって電子保存することは認められていませんでした。

しかし今回の改正で、承認以前の過去分重要書類についても電子保存することができるようになりました。

※「重要書類」とは、国税関係書類のうち、国税庁が定める資金や物の流れに直結、連動する書類のことで、領収書や請求書などがこれに該当する。

したがって、すでに電子保存の承認を受けている企業等の保存義務者が、過去分重要書類について適用届出書を出して承認されれば、自社で現在紙媒体にて保存している過去分重要書類についても電子保存できるようになります。
(※2019年9月30日以後に出す適用届出書に係る過去分重要書類から適用[例えば2019年10月1日に適用届出書を出すと、それ以前の過去分重要書類から電子化ができる])

国税庁 令和元年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要について

まとめ

経理書類の電子保存に関して、その法的根拠となる電子帳簿保存法の骨子や改正の動き、経理書類で電子保存ができる文書種類、電子保存を行うときの手続きなどについて解説してきました。

このようにネットの普及と業務のシステム化・アウトソーシングを背景に、経理書類の電子保存に関して法律面からの整備はどんどん進んでいますが、一方で電子帳簿保存に対応している会社は多いとはいえない状況にあります。

企業あるいは個人事業主として、今後の電子保存の動きに的確に対応していくためにも、改正後の電子帳簿保存法に対応した会計ソフト、特にクラウド型の本格的な導入が必要であると考えます。

特に過去の書類が少なく移行コストが低いスタートアップでは、できるだけ早い段階で経理書類の電子保存の導入を検討しましょう。