会社という組織には、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社という4つの形態があります。
かつては中小企業で多く利用されていた有限会社という形態は、2006年の新会社法施行によって廃止され、現在では新たに設立することはできません。

よって、これから会社を設立する場合はこの4つの中から自社の目的に合う会社形態を選択する必要があります。
また、会社形態を選択するにあたっては、責任範囲や費用面などそれらの違いを正しく理解する必要があります。
この記事では、各会社形態の特徴を説明しつつ、各会社形態のメリットデメリットについて解説していきます。
目次
株式会社と持分会社
株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の違いを知る前に、株式会社と持分会社という概念を理解する必要があります。
4つの会社形態は、株式会社と持分会社の2つに大別され、合同会社、合資会社、合名会社の3つが持分会社に該当します。
株式会社・持分会社ともに営利目的という共通項はありますが、持分会社では、会社を設立した出資者自身が利益配分についての決定権を持って業務を遂行するのに対して、株式会社では必ずしも出資者と経営者が一致するわけではなく、出資した株主へ利益を還元することを目的として経営者が業務を遂行します。
なお、株式会社と合同会社を含む持分会社では、設立のために必要な費用は異なるものの、税率や税金の種類などの税法上の扱いは同じであるため維持費は変わりません。

株式会社の特徴
株式会社は会社への出資の単位が「株式」で、出資者(株主)から資金を調達し、経営者が事業運営を行う会社形態です。
したがって株式会社では、所有と経営が分離されており出資者(株主)と経営者が必ずしも一致するわけではありません。会社の株式の大半を所有して自社の経営を行ういわゆる「オーナー社長」もいれば、社長ではあるものの、株式をほぼ持たない「雇われ社長」も存在します。
株式会社の執行機関は代表取締役社長を含む取締役ですが、会社の最高意思決定機関は株主総会です。
そのため、株主総会においては、大きい出資比率の株主の意見が経営者以上に力を持つことになり、取締役会が決めた経営方針が大株主によって左右されたり否決されたりすることもあります。
持分会社の特徴
持分会社は会社への出資の単位は「持分」であり、出資者自らが経営を行う組織形態です。
持株会社では、出資者間で話し合いにより得られた利益の配分を、出資比率に関係なく自由に決めることができるため、経営に対する自由度は株式会社より高くなります。
例えば、とある会社にAさんが全体の70%、別のBさんが30%出資していたとしても、話し合いによってAさんとBさんの利益の取り分を50%づつにすることもできます。
株式会社・合同会社・合資会社・合名会社のメリット・デメリット
株式会社
株式会社は大企業から中小企業まで幅広く利用されている会社形態で、実に日本の法人の9割以上が株式会社という形態をとっています。
2006年の新会社法が施行される以前は、取締役会の設置や1000万円以上の資本金が必要でしたが、現在では資本金1円からでも設立できるようになり、設立のハードルが大幅に下がりました。
株式会社のメリット
・ほとんどの業種の事業で株式会社が使える
・新株発行、銀行融資等、資金調達方法が増える
・経営者の判断で弾力的に社員数を増やすことができる
・有限責任なので会社が倒産しても負債の責任は自分が出した出資額の範囲に限定される
・社会的信用度が高くなり、人の採用が容易になるほか、取引先からも信頼されやすくなる
・最低資本金制度が撤廃されたので、以前と比べてかなり設立しやすくなった
株式会社のデメリット
・設立費用が他の会社組織より高い(法定費用だけで約20万円)
・決算公告の義務があり、毎年決算終了後に会社の決算書を公表しなければならない
・株主総会、取締役会といった会社の機関設計に法律の制約が多い
合同会社
合同会社は2006年の新会社法で新しく認められた会社組織です。
株式会社に比べて設立の手続きが簡素化され、かつ法定費用も半分程度で作れます。設立の簡便性もあって新規設立法人の2割近くを占めています。
主に事業規模が小さく始めたい個人事業主等が法人格を取得する際など、企業としての信頼性をあまり重要視しない場合などに利用されています。
それ以外では、Googleなど米国にある大企業が日本法人を合同会社で設立するケースなどがあります。このケースは、代表者を法人にすることで米国の会社に支配させつつ、米国税法のパススルー課税を適用することで日本法人の損益を米国法人に流す狙いがあります。
合同会社のメリット
・設立費用が株式会社より安い(法定費用で約10万円)
・最低資本金の制度がなくなり、信用・労務・現物出資のみでも設立ができるようになった
・組織構成がシンプルなので会社の意思決定が株式会社より早い
・有限責任なので会社が倒産しても負債の責任は自分が出した出資範囲に限られる
・会社の維持に掛かる手間と費用が株式会社より少ない
・出資比率に関係なく全員に対等な議決権がある
・出資比率にかかわらず、事業に対する貢献度に応じた利益配分が可能
・個人事業主に比べて経費として認められる範囲が広い
・株式会社のような決算公告の義務がない(ただし、合併、組織変更、資本金額の減少等の場合は官報に公告の義務有)
合同会社のデメリット
・持分会社は社員自身が出資社であるため、増員をする場合は全社員の同意と定款への変更が必要となり、株式会社と比べ手間がかかる
・銀行融資など資金調達方法が限られる
・出資者間の人間関係がうまくいかないと会社運営がまずくなるリスクがある
・株式会社に比べてに認知度が低いため、社会的信用度が低い
・事業規模が拡大しても株式上場できない
合資会社
合資会社はかつて少ない資本で設立できる法人として利用されてきましたが、2005年に最低資本制度が撤廃され、かつ2006年の新会社法施行で合同会社が作られた経緯もあり、現在では会社形態としてあまり需要がありません。
合資会社のメリット
・設立費用が株式会社より少ない(法定費用で約10万円)
・最低資本金の制度がなくなり、信用・労務・現物出資のみでも設立ができるようになった
・会社の意思決定が株式会社より早い
・会社法に違反しない限り、自由に会社の内部組織を規定・設計できる
・会社の維持に掛かる手間と費用が株式会社より少ない
・出資比率に関係なく全員に対等な議決権がある(ただし無限社員が有限社員よりやや発言権が強い)
・出資比率にかかわらず、事業に対する貢献度に応じた利益配分が可能
・株式会社のような決算公告の義務がない
合資会社のデメリット
・合同会社と同様、社員の増員には総社員の同意と定款の変更が必要になる
・会社が倒産した場合、有限社員は負債の責任が出資範囲に限定される一方、無限社員は負債の責任は全て負う(その分、無限社員は社内で大きな業務執行権が行使できる)
・株式会社に比べて資金調達方法が限られる
・出資者の人間関係がうまくいかないと、運営がまずくなるリスクがある
・最低資本金制度の撤廃で合資会社の有利性がなくなり、現状利用者が少ない
・会社法の改正により有限責任の合同会社ができたため、経営者が直接リスクを負う合資会社をあえて選択する必要がない
・合資会社は社員2名以上(無限責任社員1名、有限責任社員1名)で設立できるが、退社等で1名になると合同会社、合名会社等に組織変更しなければならない
合名会社
合名会社は責任形態として無限責任社員からのみ構成されている組織形態であり、その性格は個人事業主に近いものがあります。
現在、実際のビジネスの現場ではほとんど見かけない組織形態です。
合名会社のメリット
・設立費用が株式会社より少ない(法定費用で約10万円)
・最低資本金の制度がなくなり、信用・労務・現物出資のみでも設立ができるようになった
・会社の意思決定が株式会社より早い
・会社法に違反しない限り、自由に会社の内部組織を規定・設計できる
・会社の維持に掛かる手間と費用が株式会社より少ない
・出資比率に関係なく全員に対等な議決権がある
・出資比率に拘わらず、事業に対する貢献度に応じた利益配分が可能
・決算公告の義務がない
合名会社のデメリット
・合同会社と同様、社員の増員には総社員の同意と定款の変更が必要になる
・会社が倒産した場合、合名会社の出資者は無限責任なので、債務者に対する負債の責任は出資者全員が連帯で背負う
・株式会社に比べて資金調達方法が限られる
・出資者の人間関係がうまくいかないと、運営がまずくなるリスクがある
・会社法の改正で合同会社ができ、合同会社が有限責任なのに、経営者が直接リスクを背負う合名会社をあえて設立する意義がなくなった
株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の違い(比較表)
まずは各会社形態の違いを理解するため、主要な項目について比較表を作成しました。
株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 | |
略称 | (株)/(カ) | (同)/(ド) | (資)/(シ) | (名)/(メ) |
必要な出資者 | 1名以上 | 1名以上 | 2名以上 | 1名以上 |
出資者 | 株主 | 社員 | ||
経営の主体 | 取締役 | 業務執行社員 | ||
会社の代表者 | 代表取締役 | 代表社員 | ||
役員の任期 | 通常2年/最長10年 | 期限なし | ||
最高意思決定期間 | 株主総会 | 社員総会 | ||
出資者の責任範囲 | 間接有限責任*2 | 直接無限責任と直接有限責任*2 | 直接無限責任*2 | |
設立手続きの手間 | 手間がかかる | 株式会社より容易 | 合同会社より容易 | |
設立費用 ①登録免許税 | 計24万円 ①15万円*1 | 計10万円 ①6万円 | 計10万円 ①6万円 | 計10万円 ①6万円 |
決算広告 | 必要 | 不要 | ||
増資時の資本余剰金 | 1/2まで資本準備金にすることが可能 | 全額を資本余剰金とすることが可能 | ||
利益配分 | 原則として出資比率により配分 | 定款で定めた分配比率により配分 | ||
定款変更 | 株主総会の特別決議 | 全社員の同意 | ||
株式(持分)の譲渡 | 自由*3 | 全社員の同意 |
※1 資本金の0.7%か15万円のどちらか高い方
※2
間接有限責任:出資した範囲で責任を負う
直接有限責任:出資した範囲で責任を負い、債権者から直接責任の追求を受ける
直接無限責任:全ての責任を負う
※3 譲渡制限をかけることもできる
スタートアップが株式会社を選ぶべき理由
スタートアップが会社を設立する場合は株式会社がベストです。理由は以下の4つです。
①他の会社形態に比べて対外的な信用力が高い
②最低資本金要件がなくなり1円から登記できるようになった
③株式出資により多くの資金を調達できる
④事業が成長し大きな利益が得られるようになればIPOできる可能性がある
持株会社から株式会社へ形態変更することも可能ですが、手間がかかるためオススメできません。特段の理由がない限り最初から株式会社の形態を軸に考えましょう。
なお、合同会社から株式会社へ組織変更を行う場合は、株式会社としての概要を記した所定の組織変更計画書を作成後、総社員の同意を経て、債権者の保護手続き、官報への公告掲載、登記申請などが必要になります。
合同会社から株式会社に変更するメリットと手続き・費用について
まとめ
この記事では、主に4つの会社形態のメリットデメリットを解説してきました。
前述の通り全体として多いのは依然として株式会社ですが、その手軽さも相まって近年合同会社の割合が増加傾向にあります。

また、合資会社や合名会社を使って法人化する会社は極めてまれになっています。簡単に合同会社が作れるようになったことで、合名・合資会社の存在意義はほとんどなくなってしまったと言っても過言ではありません。
そのため実際には、会社の成長戦略や目的に応じて株式会社または合同会社を選択するかたちになると思います。