起業した際に行うべき手続きは非常に多くあります。その中でも、会社の設立登記は必ず行わなければならない避けては通れない手続きです。
登記は法律によって義務付けられているだけではなく、会社の登記を行っていないと社会的信用度も低下してしまうため、経営者はどれだけ忙しくても必ず登記を行う必要があります。
今回の記事では設立登記の流れと、費用や申請書類などについて解説していきます。
起業を決意したものの、「登記って何だか面倒くさそう…」とついつい後回しにしてしまっている方は、この記事を読んで会社設立の手続きを進めてみましょう。
目次
そもそも登記って何?
必要な手続きをご紹介する前に、「登記」について簡単に解説します。
登記とは、取引において第三者に不測の損害を被らせないことを目的として、公開された帳簿上に必要事項を記載し、広く公に示すことをいいます。
登記の中で、会社に関する情報を記載する手続きのことを商業・法人登記といいます。
会社の設立時はもちろん、役員の変更や本店の移転、増資や社名変更などが行われた場合にも、商業・法人登記が必要になります。
会社概要の決定から設立登記までの流れ
次に会社の概要の決定から設立登記までの流れを解説します。
会社の概要を決める
まず最初に行うことは会社概要の決定です。
会社の設立登記を行うにあたっては、事前に商号や本店所在地といった基本的な会社の情報を決めておく必要があります。具体的には以下のようなものが挙げられます。
・商号
・本店所在地
・事業目的
・発起人の氏名
・代表取締役の氏名及び住所
・取締役の氏名
・監査役の有無 など
この中でも注意しておきたい事項は本店所在地です。
なぜなら本店所在地をどこにするかによって登記申請をする法務局が異なるためです。
以降の手続きをスムーズに進めるためにも、本店所在地は早い段階で明確に決定しておきましょう。
法人用の印鑑を準備する
次に行うのが「法人用の印鑑の準備」です。
設立登記のために必要な書類を作成するにあたっては、法人用の印鑑が必要になります。そのため、書類を作成する前に、法人用の印鑑を準備しておく必要があります。
商業・法人登記において、必要な印鑑は法人実印のみですが、その他会社の運営するうえで必要となるであろう印鑑も併せて作っておくと良いでしょう。
法人実印を含む主な印鑑は以下の通りです。
1.法人実印
商業・法人登記の際に必要となる印鑑です。サイズは1cm超3cm以内の正方形に収まる大きさが良いとされています。
2.銀行印
法人口座を開設する際に必要となる印鑑です。手形や小切手などにも使用されます。
3.社印
領収書や請求書、見積書といった実務で使用される印鑑です。
4.ゴム印
契約書等の書類に会社の情報や署名を書く手間を省くために用いられる印鑑です。会社の所在地や電話番号、会社名、代表者名が刻印されています。
定款を作成する
次に紹介するのが、定款の作成です。
定款とは会社の根幹となる規則を記載した文書のことです。
「会社の憲法」とも呼ばれ、会社は定款に沿った形で運営を行っていく事になります。
その記載項目は主に「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つです。
以下にそれぞれ解説いたします。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、定款作成時に必ず記載しなければならない事項のことを指します。この事項の記載がないと定款は無効となってしまうので注意が必要です。
具体的には以下の通りです。
・事業目的
・商号
・本店所在地
・設立登記に際して出資される財産およびその最低額
・発起人の氏名および住所
・発行可能株式総数
この中で特に注意したいのが「商号」です。
なぜなら、法律により既存の他の会社と本店所在地が同じである場合、同一の商号を登記することが認められていないためです(商業登記法第27条)。
もし同一の商号にする事によって既存の会社に不利益が生じた場合、係争となる可能性があるため、商号の調査は予め行っておくようにしましょう。
調査には、法務局のオンライン登記情報検索サービスなどを使用するとよいでしょう。
法務省 – オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査について
相対的記載事項
相対的記載事項とは、記載しなくても定款が無効とはならないものの、記載しなければその効力が認可されない事項のことをいいます。
株主の譲渡制限や役員の任期、財産引渡などが例として挙げられます。
任意的記載事項
任意的記載事項とは、定款に記載する必要はなく、また記載しなくてもその効力が発揮される事項のことを指します。
事業年度や役員の数、公告方法(事業年度ごとの決算通知)などがその例として挙げられます。
定款の認証を受ける
定款の作成が完了したら、法務局で定款の認証を受ける必要があります。
登記予定の都道府県にある公証役場で認証を受けるようにしましょう。
なお、認証時に必要な書類は以下です。
1.定款 3部
2.発起人全員の印鑑証明書(印鑑登録をした役所で発行)
3.発起人の実印
4.身分証明書
5.公証人へ支払う手数料(5万円)
6.定款の写し交付手数料(250円x定款のページ数)
7.収入印紙(紙の定款の場合は必要、4万円)
以前は定款は紙の書類のみでしか認められていませんでしたが、2004年以降PDFファイルにて作成する「電子定款」でも認証の手続きを受けられるようになりました。
上述したように定款は「会社の憲法」とも呼ばれるほど、重要な文書です。
よってどの企業でも今後の経営が円滑にいくようにその内容は熟慮する必要があり、その分作成には時間がかかります。
そのため近年では少しでも定款作成の手間が省けるように、オンライン上で作成する「電子定款」がよく利用されています。
電子定款は作成の手間が省ける上に、紙の定款の認証時に発生する収入印紙がかからないというメリットもあるため、非常におすすめです。
電子定款の場合、申請用総合ソフトより電子定款を送信した後、公証役場に出向いて定款を受け取り、定款に関する手続きが完了となります。
資本金の払込を行う
次にご紹介する手続きは「資本金の払込を行う」ということです。
この際にご注意いただいきたい点は「誰が」「いくら」払い込んだかを書類に残すことです。通帳の記帳欄や表紙、個人情報のページをコピーしておきましょう。
これらは後に行う商業・法人登記にて必要となります。
通常は会社の運営に関するお金は法人口座へ払い込みをしますが、この時点ではまだ法人口座を開設することはできません。
そのため、商業・法人登記の際の資本金の払込は発起人名義の口座で行う事になります。
法務局へ登記申請する
最後は、法務局への登記申請です。
これまでの手続きを終えたら法務局へ商業・法人登記の申請を行う事になります。
申請時に必要な書類は以下の通りです。
1.設立登記申請書
定められた書式に従って作成します。書式や記載例は法務局のホームページから確認することが可能です。
2.定款
公証役場にて認証された定款を用意します。
3.登録免許税納付用台紙
登記の際は登録免許税を収入印紙で納めます。この収入印紙を添付するための台紙を作成し、登記申請書に添付します。
なお、登録免許税は15万円を下限として資本金 x 0.7%です。
4.発起人決定書
定款で本店所在地を最小行政区画(東京都渋谷区など)までの記載にした場合に必要となります。また、登記の際は本書類に発起人全員の押印が必要です。
5.取締役の就任承諾書
取締役となる者の就任を承諾したことを証明するために必要となります。
6.代表取締役の就任承諾書
代表取締役となる者の就任を承諾したことを証明するために必要となります。なお、取締役が1名の場合は準備する必要はありません。
7.監査役の就任承諾書
監査役となる者の就任を承諾したことを証明するために必要となります。
8.取締役の印鑑証明書
定款の認証手続きの際に取得した印鑑証明書と同様のもので構いません。取締役が複数の場合は全員分の印鑑証明書が必要ですが、取締役会を設置している場合は代表取締役のみとなります。
9.印鑑届書
法人実印の届け出をする際に必要な書類です。以下のリンクより書式をダウンロードできます。
10.資本金の払込証明書
資本金の払込を行った際にコピーした通帳の記帳欄や表紙、個人情報をまとめ、払込証明書であることを示す表紙をつけた上で提出します。なお、各ページに割印が必要となります。
11.登記すべき事項を記録・保存した記録媒体
各書類は書面で提出することもできますが、CD-RやDVD-Rなどの電磁的記録媒体で提出することも可能です。電磁的記録媒体での提出を行う場合は、法務局のホームページで規格や記載方法を確認しておきましょう。
士業へ委託する際の相場はどれくらい?
商業・法人登記は法律で義務付けられており必ず行わなければなりませんが、提出すべき書類や提出先が複数あり、やらなければいけないのは分かるけど時間が足りない…という経営者の方も多いのではないでしょうか。
そのような方は司法書士や行政書士といった士業へ委託することをおすすめします。
士業に商業・法人登記を委託すれば会社登記の手間が省け、非常にスピーディーに対応してもらえます。
また委託相場は5万〜10万円とそれほど高額というわけではありません。
もし起業時に登記以外に専念すべきことがあり時間がかけられないということであれば、士業へ商業・法人登記を委託されてみてはいかがでしょうか。
まとめ
以上、会社概要の決定から設立登記までに必要な手続きや、士業へ委託する際の相場をご紹介いたしました。
必要書類の多さから非常に煩雑に感じている方もいらっしゃるかもしれませんが、各手続き自体はそれほど難しいものではなく一つ一つこなしていけば意外と簡単に手続きを終えることができると思います。
設立登記は、必ず必要な手続きとなりますので、ぜひ早めに取り掛かるようにしましょう。当記事がその参考になれば幸いです。