外食産業の市場規模は約25兆円。食材仕入額は7兆円を占めている。にもかかわらず、受発注方法の約7割が未だにデジタル化されていない。
約60万店舗の飲食店、約7万社の卸売業者の受発注に潜む非効率に、インターネットの力で挑む企業。それがクロスマート社だ。
クロスマートの経営を支える「人」と「資金」のリソース調達について、代表の寺田氏に迫る。
寺田 佳史(てらだ よしふみ)
中央大学商学部を卒業後、2007年にサイバーエージェント入社。大手企業とのアライアンス事業の立ち上げ、Facebookコマース事業の立ち上げに従事。その後、2013年にヘルスケアメディア「Doctors Me」を立ち上げ、売上1.5億、月間300万UUまで育て2017年に事業売却。2018年5月に、スタートアップスタジオのXTech入社。2019年9月クロスマート株式会社代表取締役に就任。
目次
受発注業務を効率化できる「クロスオーダー」
───まずは、クロスマートについて教えていただけますでしょうか。
クロスマートは「外食産業をアップデートする」というミッションを掲げ、飲食店と卸売業者の双方が業務を効率化できるSaaSを提供している企業です。
───2019年の11月にリリースしたという「クロスオーダー」について、詳しく教えてください。
クロスオーダーはLINEとFAX-OCRを活用した受発注サービスで、飲食店、卸売業者双方にとって煩雑な「食材の受発注プロセス」を効率化するサービスです。
▲クロスオーダーを使えば、卸売業者側の受注プロセスを大幅に効率化できる。
飲食店側は、利用料無料でLINEでの発注が可能だ
卸売業者は、煩雑な受注作業の課題を解決することができ、飲食店側は利用料ゼロでLINEによる発注が可能になるというサービスです。
───現在、どのくらいのユーザに利用されていますか?
2019年11月のサービス開始から2020年2月までの4ヶ月で卸売業者数十社、飲食店数百店舗に導入が進んでいます。
外食産業のバックオフィスに潜在する「不合理」
───食材の受発注領域というのは、どのくらいの市場規模なんでしょう?
外食産業の食材流通マーケットは約7兆円と言われています。
未だに約7割が、FAXや留守番電話などのアナログな発注方法となっています。
▲7兆円規模といわれる仕入市場
───アナログな受発注によってペインを感じているのは、飲食店と卸売業者の両者ですか?
そうですね。
外食のエンドユーザ側、つまり消費者側の予約・集客・決済といった分野のテクノロジーは進化しているのですが、仕入れや物流などのバックオフィス側の効率化はまだ改善の余地があると思っています。
どちらにも課題はあるのですが、「クロスオーダー」が特にフォーカスしているのは卸売業者です。
大手の卸売業者だと、毎日数百〜数千件を超える注文を受けています。FAX対応でデータを入力するための人件費、用紙代はもちろん、最新のFAX機のリース代なども含め大きなコストが発生しています。夜間に注文対応するため、専任のスタッフを雇う卸売業者も珍しくありません。
「クロスオーダー」は、このコストの縮小を通じて外食のバックオフィス領域の効率化に貢献しようとしています。
卸売業者の業務効率化に特化
───受発注の領域で、「クロスオーダー」が他サービスと最も異なる点は、どういった点にあるのでしょうか。
「飲食店の効率化」に向いているサービスが多い中、我々は「卸売業者の業務効率化」にフォーカスしている点ではないかと思います。
外食の受発注領域のシェア1位はインフォマートさんです。上場企業で時価総額2000億もある大手企業です。彼らが強いのはチェーン店向けの機能であり、受発注から請求書まで一気通貫できる仕組みです。
クロスオーダーは、まだデジタル化されていない個店飲食店のFAX注文を減らし、卸売業者の「受注業務の効率化」を実現したいと考えています。
───プロダクトを磨く上で、気をつけていることはありますか。
「顧客の声を聞く」という、当たり前のことを徹底的にやるよう意識しています。
お客さんの所に行って話を聞いて、画面のモックアップを触ってもらって、フィードバックを受けて…という試行錯誤を繰り返しやっています。
プロダクトアウトで、僕らが仮説を立てて、こういうサービスがいいですよねって言っても使ってもらえなければ意味がないので、顧客の声を聞くことを大切にしています。
───「クロスオーダー」に2020年1月に追加されたFAX-OCR機能も、そうやって生まれたんでしょうか。
▲2020年1月にリリースされたFAX-OCR機能。
飲食店が使い慣れたやり方を変えることなく、卸売業者側の受注作業を平均10分の1までに効率化できる
そうですね。
当初、我々は飲食店に対し「非効率なFAXから脱却しませんか」という方向でご案内していたのですが、「使い慣れてるやり方を変える方がかえって非効率」という声を受けて、FAX-OCR機能を開発しました。
確かに、スマホ操作に慣れていない方や、スタッフの入れ替わりが激しい店舗では、慣れている発注方法を変えてもらうと、かえって業務効率が悪くなってしまうことがわかりました。
しかしそのままでは、卸売業者の受注業務効率化は実現できないので、「飲食店は従来のやり方を変えずに、卸売業者の効率化ができる方法」を模索していき、「FAX-OCR機能」が生まれました。
経営者としての注力ポイント
───ここからは寺田さん自身についてお伺いしたいのですが、個人としていま一番注力していることは何ですか?
今は資金調達に注力していて、半分くらいの時間を割いています。残りはプロダクトに30%、採用に20%くらいですね。
プロダクトはもっと進化させられるし、人事や広報にもあまり手が回っていない状態ですので、次の課題かなと思っています。
───資金調達がなければ、プロダクトと採用と広報の三つに注力したいということですか?
どれも好きなんですが、今のフェーズで私が注力すべきことは、資金や人材のリソース集めだと思っています。
───現在、クロスマートのメンバーは何人ですか?
社員が8名。業務委託とインターン合わせて20名ぐらいです。
───クロスマートはリファラル採用が多いと聞きました。
何を重視して仲間となる人を選んでいますか?
「人柄」を大事にする外食産業にフィットする組織づくりを目指し、採用も自然と人柄重視に
「人柄採用」と言っています。
「スキルは突出しているけど、人柄やモラルが疑問」みたいな人よりは、スキルがまだ十分じゃなくても「一緒に働きたいと思える」ということを重視しています。
というのも、我々の事業領域ではそういう人の方が成果を出せると考えているからです。外食産業は義理や人情を大切にします。お客さんから「●●さんが言うならやってみるよ!」「紹介したい人がいるから会ってみて!」と言ってもらえるようなチームにしたいんです。そういう人達がフィットするような組織を作りたいと思っています。
今は社内の雰囲気がとてもいいです。
自分たちが提供しているサービスに自信があるからというのもありますが、「一緒に働きたい人材」が採用できているからというのが大きいと思います。
───リファラルがうまくいってる理由は、何だと思いますか?
会う人会う人、採用目線で見ているからです(笑)
というのと、友達・知り合いから採用するというのは常に意識しています。
自分はFacebookの友達が1,500人くらいいるのですが、定期的に全員チェックしています。
一緒に働きたいなと思っている人が、今何をしているかを見ています。タイミングを見ては「最近どう?」って声をかけています。
───実際、FacebookとかSNSで繋がっている人を直接スカウトしたことも…
はい、採用に繋がってます。カスタマーサクセスの足立さんは、この方法でクロスマートにジョインしてくれた人材ですね。
───「これだ!」と思った人材を口説くコツってありますか?
この人と働きたいなと思った時は、結構しつこく言うようにしてます。
採用はタイミングと熱量が大事だと思っていて、特にスタートアップの場合は知名度やブランドもないので、こちらから積極的に口説いています。
───ロックオンしたら、情熱的に何度も口説くんですね。
株主は、事業の成功という目標を共有する「仲間」
───クロスマートの資金調達についてお伺いさせてください。
現在の株主はXTech、ベンチャーユナイテッド、セゾン・ベンチャーズ、エンジェル投資家の梅田さんといった面々です。株主には場面場面で助けてもらい、事業へのアドバイスをいただいています。
誰に株主としてチームに入ってもらうかはとても重要だと思います。事業を成功させるという目標は起業家も株主も同じですので、株主は強力な援軍であり、パートナーです。
基本的に、起業家は投資家から選ばれる立場ですが、起業家にも仲間になってもらいたい投資家を選ぶ権利があるので、慎重に判断した方がいいというのが僕の意見です。
───株主を巻き込む方法として、意識されていることはありますか?
悪い意味ではなく、「甘える」ことを意識しています。XTech代表の西條さんも「社内外の使えるリソースは最大限活用し急成長させる」と言っていますが、その意識を持つようにしています。起業家も投資家も、事業価値を高めるという目標は同じです。アドバイスがほしいこと、協力してほしいこと、困っていることは、株主の力を借りるようにしています。経営者は株主から選任される立場なので、あらゆる手段を使って事業価値を高めることが求められていますしね。
───クロスマートが次にチャレンジしたいことはありますか?
外食産業や卸売業界を知れば知るほど、やりたいことが増えていきます。クロスマートが、外食産業に貢献できることは多いと思っています。
まずは受発注サービス「クロスオーダー」をさらに使いやすく改善し、業務効率化という観点で、新たな機能やサービスを作っていきたいと思います。
───寺田さん、お忙しい中ありがとうございました!