食べられないものがある31億人の外食を救うCAN EAT代表・田ヶ原氏に聞く、「パーソナライズドフード」の価値と拡大戦略

アレルギーや「食べられないもの」を登録して、飲食店や友だちにシェアできるサービス、CAN EAT。約1300名が参加するビジネスコンテストTOKYO STARTUP GATEWAYでファイナリスト10名に選出され、サービスはテレビや新聞等多くのメディアに取り上げられる。

コロナ禍で岐路に立つ飲食店も多い中、選ばれる飲食店の鍵となる「食のパーソナライズ」の価値とは。CAN EATはどうやって「食のパーソナライズ」を実現していくか。代表の田ヶ原氏に伺った。

田ヶ原 絵里(たがはら えり)

慶応義塾大学文学部を卒業後、大日本印刷株式会社にて7年間、様々なジャンルの新規事業の立ち上げやその運用に関わる。家計簿アプリサービス「レシーピ!」のユーザー獲得や購買データ分析を担当し、1年で100万ダウンロードの規模に成長させる。その他、3Dプリンターやアニメをテーマとした事業立ち上げや、成熟した自社事業の担当等を行い、0→1、1→10、10→100のフェーズを経験。FoodTechの将来性に興味を持ち、パーソナライズドフードの実現を目指して2019年4月に株式会社CAN EATを立ち上げ。

───田ヶ原さんが、フードテックに興味を持ったきっかけは何でしたか?

前職の大日本印刷で、新規事業立ち上げに携わりました。3Dプリンターの事業を任されて調査した際に、3Dプリンターで食べ物を作るオランダの技術を目の当たりにしたのがきっかけで、大量生産・大量消費だった「食」がパーソナライズされる未来が間近に迫っていると感じるようになりました。

───どういうタイミングで起業に至ったのですか?

TOKYO STARTUP GATEWAY 2018でファイナリストとしてプレゼンテーションを行う田ヶ原氏

在職中に「CAN EAT」のアイデア構想はあったのですが、社内答申が通らなくて。
自分としては、パーソナライズフードの市場は絶対にあると確信していましたので、それを機に起業する流れになりました。

───田ヶ原さんが起業のために退職されるとき、周りの反応はどうでしたか?

暖かく送り出してくださる方が多かったです。当時関わっていたフードテックのプロジェクトのメンバーの中には、「初志貫徹」ということで応援してくださったり、今もお仕事につなげてくださる方もいます。

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「食べられないもの」がある人の外食を楽に

───CAN EATは、どんなサービスですか?

CAN EATの使い方と特徴

CAN EATは、食べられないものがある人の外食を救うサービスです。
アレルギーや「食べられないもの」を登録して、飲食店や友だちにシェアすることで、食事制限の伝え忘れや伝えるストレスから解放され、ひとりひとりにあった外食を実現できます。

───なぜ、このサービスを提供しようと考えたのですか?

母がお米、トマト、ジャガイモ、キウイなど数種類のアレルギーを発症したことから、アイデアを思いつきました。家族で外食をするときはいつも、「何が」「なぜ」「どういうレベル感で」食べられないのかを口頭でお店に伝えなければならず、手間や時間がかかっていました。お店にも負担をかけてしまい、伝え漏れがあったりせっかく作ってもらったものを食べられなかったりすることに、ストレスを感じていたんです。

実家の冷蔵庫は、食べられないものが多い田ヶ原氏の母の作り置きがぎっしり

───アレルギーがない人でも、CAN EATは活用できるのでしょうか?

ご自分のために活用する場合と、誰かのために活用する場合で、2パターンあるかと思います。
例えば妊娠中や授乳中ですとお酒や生魚を控える方がいらっしゃいますし、病気で食事制限中の方、ベジタリアンの方も使えます。苦手な食材がある方も、頑張れば食べられるレベルから、絶対に食べられないレベルまで、自分の食事スタイルについて知ってほしいことがあれば簡単に共有できます。

CAN EATの食事プロフィール帳の使い方。食のスタイルを簡単にシェアできる

また、誰かのために活用する場合、海外旅行のお土産やビジネスで手土産を渡す場面など、食のギフトを考える場面でも、活用いただきたいです。お酒を飲めない方にお酒を贈ったり、大豆アレルギーのご家庭に醤油を贈ってしまうといった失敗も防げます。

アレルギー事故の9割を占める原因に、テクノロジーで挑む

───飲食店側は、アレルギー対応にどんな苦労をしているんでしょうか?

近年、飲食店側でのアレルギー事故による賠償事例が少しずつ増えています。
誤表示やコミュニケーションミスなどによってアレルギー事故が発生した場合、飲食店側にも責任が及んで、高額な賠償金が発生した事例があります。
飲食店にヒアリングする中で、お客さんのアレルギー情報を来店前に知ることができれば、よりよく対応できるというニーズが見えてきたことがCAN EATの事業の原型になりました。

───お客さんの来店前にアレルギー情報を集約できることが、飲食店にとってのCAN EATの価値ということですね。

アレルギー事故の9割は、コミュニケーションミスかスタッフの知識不足のどちらかが原因で起こっていると言われます。
前者のコミュニケーションミスを防ぐためには、CAN EATのサービスでその情報をとりまとめて、直接お店に伝えていただくということで解消していますが、後者の知識不足については、「ヒヤリハット辞書」というものをこちらで用意しています。教育コストをかけなくても、アレルギーの知識不足を埋められるような仕組みです。

───知識不足の解消によって、予防できる事故があるんですね。

アレルギーを持つゲストが食品を登録すると、注意点をまとめた情報を表示する
CAN EATのヒヤリハット辞書イメージ

はい。例えば卵アレルギーのお客様がいらっしゃった場合、卵それ自体はもちろん、マヨネーズの原料として使用されている卵や、ハムとかソーセージの繋ぎの成分にも注意が必要なんです。バイト等、経験の浅い方ですと知らないことも多いので、こういった辞書は役に立つと思います。

───田ヶ原さんのご家族も外食で苦労されたと思いますが、やはり良いサービスを提供することは、お客さんの満足度やリピートにつながるものでしょうか。

そうですね。魚介類のアレルギーをお持ちの佐藤尚之(さとなお)さんという方が、あるレストランで「自分が食べられるものは何がありますか?」と質問した際に嬉しかった対応を記事にされていました。嬉しかったポイントは3つあったといいます。

  1. キッチンに聞きに行かず、すぐに答えてくれたこと
  2. 「〇〇が食べられません」という言い方でなく、「〇〇ならお楽しみいただけます」と、 ポジティブに答えてくれたこと
  3. おすすめをにこやかに、笑顔で教えてくれたこと

毎回さりげない神サービス。渋谷『チェントアンニ』  〜アレルギー対応が嬉しかったレストラン

 

佐藤さんは、この「神対応」によってお店のファンになり、常連として通うようになったそうです。食物アレルギーを持つ当事者としては、アレルゲンのないものを出してもらえることが大前提ですが、いかに「普通に」扱ってもらえるかが嬉しいのだと、佐藤さんは書かれています。

───「食のパーソナライズ」が自然にできるお店は、ファンを自然に惹きつけるのですね。

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「アレルギー」分野の参入障壁の高さ

───今後、既に多くのユーザを抱えた大手サービスがこの「食のパーソナライズ」という領域に参入してきた場合に、CAN EATの優位性はどこになると思いますか?

通常「アレルギーの管理」というと、7大品目か、28の推奨品目までになると思いますが、CAN EATでは専門家と一緒に作成した約700項目の質問を用意して、44品目に対応すべくリニューアルの準備中です。近年はアレルギーが多様化していますので、きめ細かい対応ができるのはCAN EATの強みだと思います。

───創業メンバーに専門家がいらっしゃるからこその強みですね。

CAN EATの顧問を務めるNPO法人「アレルギーっこパパの会」理事長の今村慎太郎氏(左)と田ヶ原氏(右)

はい。栄養士や、外食のアレルギー対応という専門領域で7年間最前線でやってこられた方が監修しています。飲食店だけに負担をかけるのではなく、双方にバランスが取れたコミュニケーションを実現できるのが、CAN EATの特徴です。

───2020年4月現在、CAN EATをお使いの飲食店さんはどのような業態が多いですか?

ホテル、レストラン、結婚式場やカフェなどがトライアルを受けてくださっています。

国内最大級の駅型商業施設「ルクア大阪」に店舗を構える「グッド・プロヴィジョン」などの飲食店が
CAN EATのトライアルを行っている

───CAN EATは飲食店の課金というシステムなんでしょうか。

はい、基本的には飲食店から、アレルギーなど食事制限による事故やトラブルの防止サービスとして利用料をいただいています。現在はトライアル価格で提供していますので、比較的お安く導入できますよ!

消費者の方への課金は、現状では考えていません。アレルギーを持つ方が飲食店に行くと、食事の量が減った上に追加のサービス料金が発生することもあるのですが、元々「誰もが平等に食事を楽しめるように」というコンセプトのサービスですので、アレルギーを持っている方が不利にならないようなビジネスモデルでありたいと思っています。

「食の多様性」への対応は、生き残る飲食店の共通点

───この1年での、CAN EATの展望を教えていただけますか?

この1年で目指すことは2つあります。
1つがホテルやウエディング向けのアレルギー事故防止サービスを拡販すること。
もう1つは、ユーザの数を増やすこと。2020年3月現在、アレルギーや嗜好の情報を登録してくださっている方は数千人ですが、この1年間で10万人ぐらい集めたいと思っています。

QRコードでゲストの食事制限情報を集約し、アレルギー事故を未然に防ぐ(イメージ)

───CAN EATは2019年に、クラウドファンディングプラットフォームのREADYFORで調達されていますが、この背景をお聞きしてもいいですか?

CAN EATは、クラウドファンディングで約250万円の調達に成功している

東京都主催の「TOKYO STARTUP GATEWAY」というビジネスコンテストでファイナリストに進み、特典としてサポーターだったREADYFORさんの手数料割引券をいただいたので、利用させていただきました。またCAN EATは事業的にも社会貢献性が高いものですので、相性もいいのではないかと思い、クラウドファンディングでの調達を決めました。

───今、CAN EATさんが1番、経営上の課題に思っていることは何ですか。

やりたいことが多すぎるのが課題かもしれません(笑)
自分自身、経営者として「こんなことをやってみたい」というのが次々浮かぶタイプなので、やりたいことに対して、まだまだ人が足りない状況ですかね。

───次に採用するとしたら、どういった人を採用したいですか?

エンジニアを募集したいです。今は、1〜2名のエンジニアがすごいスピードで開発してくれていますが、少しでも負担を減らしてあげたいと考えています。CAN EATで実現したい未来に共感し、一緒に形にしたいと思ってくれる人が、仲間に入ってくださると嬉しいです。

───田ヶ原さんが起業家として一番大切にしていることはなんでしょうか?

周りの方への感謝を忘れないようにしています。会社としては黎明期の今、上手くいくかわからない段階で支えてくださっている方々に助けられて、今のCAN EATがあると思っていますので。

クラウドファンディングで調達した際には、144人の支援者全員にコメントを返信して感謝を伝えた
https://readyfor.jp/projects/caneat/comments

───最後に、CAN EATの「全ての人の食事を、おいしく・楽しく・健康的にする」というミッションについて、メッセージをお願いします。

アレルギーをもつ人が6〜7人に1人と言われ、アレルギーも以前より多様化する現在、またこれから海外の方も多く日本にいらっしゃる中で、「食の多様性」への対応は重要視されていきます。

特にコロナの影響もある今、大きな岐路に立つ飲食店も多いですが、そんな中「選ばれるお店」になっていくためには、ちょっとしたホスピタリティなどが今まで以上に大事になってくると考えます。すべての人が「パーソナライズドフード」を通じて、美味しく、楽しく、健康的な生活を実現する。CAN EATが、それをサポートする存在になれたらと思います。

───田ヶ原さん、ありがとうございました。