「人材」でなく「人財」という言葉があるように、会社で働いてくれる従業員は会社にとっての貴重な財産です。
昨今、労働力減少に伴い人材確保に向けた採用合戦が加速しており、企業は優秀な人材を獲得するために多くの採用コストをかける必要が出てきました。
また、採用でのミスマッチが致命的なダメージとなりうるスタートアップにおいては、リファラルでない外部からの新規雇用は非常にリスクが高い選択肢になり、スピード感をもって積極的にアプローチすることが難しいという課題もあります。
今回ご紹介する厚生労働省の「トライアル雇用助成金」は、資金面の助成だけでなく、新規採用のリスクを下げることができるため、スタートアップにとっても非常に使い勝手のよい助成金です。
目次
若者の採用に課題を感じる企業が多い
リクルートワークス研究所の調べによると、2018年の調査実績において、中途採用の採用数は全体で伸びているものの、その内訳としては40代~60代が多く、即戦力を望む企業が増えているという見方があります。
その一方で、20代30代のいわゆる「若者世代」の採用にはどの企業も手をこまねいているようです。
トライアル雇用助成金とは?
まずは、トライアル雇用助成金とはどのようなものかを見ていきましょう。
概要
トライアル雇用助成金を利用する場合は、厚生労働省が期待している目的と助成金の内容についての理解が必要です。
トライアル雇用助成金の目的
トライアル雇用助成金は、職業経験や知識が不足している求職者の早期就職を促進する性質と、企業側にトライアル期間を設けて適性の見極めを可能にすることで、労働者とのミスマッチを減らす性質を持っています。
トライアル雇用助成金の目的は、こういった性質により求職者・企業双方の雇用へのハードルを下げることで雇用機会の創出を図り、社会全体の労働者人口の総数を上げることにあります。
助成内容について
助成内容については、簡潔にまとめると、以下のとおりです。
トライアル雇用の対象者(詳しくは後述しています)に対し企業がトライアル雇用を3か月行った際に、月額最大4万円(対象者が母(父)子家庭の母(父)の場合は5万円)支給されるというもの
このような助成金となっているため、これまで働いたことが無い方には企業に勤めるチャンスになることと、企業にとっては採用のミスマッチを無くす機会を得られます。
トライアル雇用助成金のメリット・デメリット
次に、トライアル雇用助成金のメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
まずは、メリットについてですが、今回は大きく3つのメリットを挙げていきます。
メリットには「ミスマッチを防ぐ」「企業の負担が少ない」「働き始めやすい」があります。
企業と労働者のミスマッチが防げる
採用する側の企業の想いとしては、多くの採用コストをかけるため、企業側が継続的に雇用したいと思う人材を採用したいものです。
しかし、採用して働き始めてから見えてくる部分で、「失敗したな」と思うこともあるでしょう。
そのような企業側の想いと働く労働者のミスマッチを防ぐことがトライアル雇用を行うことで可能となります。
助成金が支給されるため企業の負担も少ない
トライアル雇用期間中は、1か月あたり4万円の助成金が企業側に入るため、トライアル雇用中の負担を少なくすることができます。
採用コストは大きなものですので、少しでも負担を少なくしたいというのが企業の考えでしょう。
これまで働いたことが無い人も一歩踏み出しやすい
また、働く側にもメリットがあり、これまでチャレンジしたいと思っていた未経験のジャンルにもトライアル雇用で採用される可能性があるため、未経験のジャンルにチャレンジしやすい環境となったことも、働く側にもメリットになるでしょう。
デメリット
次にデメリットを見ていきましょう。
書類の作成が必要
助成金はどのようなものでもそうですが、書類の作成が必要不可欠です。
トライアル雇用助成金ではなくても、各種申請では国に申請するための書類が必要となり、その書類作成に時間がとられることもあるため、社労士などにお願いするケースがあります。
辞めてしまう可能性がある
企業側にとって採用したのに辞めてしまうというのは辛いものでしょう。トライアル雇用ということで、採用される側の労働者がチャレンジ感覚で、すぐに辞めてしまうということも懸念事項として考えられます。
しかし、そもそもそのような場合、トライアル雇用でなければトライアルではなく常用雇用での採用になるため、辞めて欲しくても辞めてもらえないというトラブルにも繋がりかねませんので、トライアル雇用があることでそのようなトラブルを防ぐことも出来るでしょう。
トライアル雇用助成金の条件について
次に、トライアル雇用助成金を利用するための条件について見ていきましょう。
採用対象者の条件
まずは、対象者ですが、トライアル雇用助成金を利用するためには、「雇用する事業主側の条件」と「採用される対象者の条件」があります。
対象者の条件については、以下が必要な条件となります。
・未経験分野への就労を望む方
・学校卒業から3年以内の方
・過去2年以内に2回以上転職を繰り返している方
・パート・アルバイトを含め離職期間が1年を超えている方
・育児などを理由に離職し1年を超えている方
・生活保護受給者の方やホームレスの方など
このように、これまで働いたことが無い方や、未経験の分野へのチャレンジをする方などが対象です。
事業主の条件
次に、雇う側、つまり事業主側の条件について見ていきましょう。
・ハローワークなどのトライアル雇用求人に係る紹介によって対象者をトライアル雇用した企業
・トライアル雇用労働者に係る雇用保険被保険者資格取得の届出を行った企業
・過去3年間にトライアル雇用に関する雇用・職業適用訓練をしたことがない企業
・雇用保険適用事業所の企業
・過去3年間で不正受給をしていない企業
・労働保険料の滞納が無い企業
・労働関係法令違反で送検処分を受けていない企業
・風俗営業などを目的としない企業
・暴力団に関係しない企業
上記が条件の一部になります。詳細は以下のページよりご確認ください。
H31年度の主な変更点
このトライアル雇用助成金はこれまでも年度ごとに公募されてきましたが、H31年度になってから変更された点もありますので、変更点についても押さえておきましょう。
対象者区分の追加
新たに平成31年4月1日よりトライアル雇用助成金の対象者の区分が追加されました。追加された対象者区分は以下の通りです。
・ニートで45歳未満の人
・フリーターで45歳未満の人
・生活困窮者
H31年度になってからの追加事項となりますので、申請を希望する方は確認しておいてください。
対象者区分の一部廃止
上記の対象者区分追加と同じタイミングで一部の対象者区分が廃止されました。廃止された対象者区分は以下の通りです。
・紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望する人
・紹介日時点で、学校卒業後3年以内で、卒業後、安定した職業に就いていない人
このような点がH31年度4月1日から変更されています。
申請手続きの流れと申請書類
次に、申請手続きの流れと、主な申請書類について見ていきましょう。
申請手続きの流れ
まずは申請手続きの流れですが、雇用する前に提出するものがあるので注意して下さい。
1.ハローワークなどで求人票の作成(トライアル雇用求人)
2.面接・採用
3.トライアル雇用の開始
4.トライアル雇用実施計画書の提出(トライアル雇用開始日から2週間以内)
5.トライアル雇用終了
6.支給申請
7.助成金支給
このような流れとなっており、ポイントは事前にトライアル雇用であることで求人票の作成をするということと、トライアル雇用を始めてから2週間以内にはトライアル雇用実施計画書の提出が必要であるということです。
申請書類について
次に、申請書類についてですが、申請書類には、以下のような書類があります。
・トライアル雇用実施計画書
・トライアル雇用対象者確認票
・トライアル雇用助成金支給対象事業主要件票
・支給要件確認申立書
・トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書
・トライアル雇用期間勤務予定表
書類については、以下のサイトよりダウンロードが可能です。
申請のポイント
これまでご紹介してきたトライアル雇用助成金の申請のポイントについてですが、トライアル雇用助成金を利用する場合には、「雇う側」も「雇われる側」にも条件があるということと、トライアル雇用を実施するためにはまずはハローワークなどで求人を出す際にトライアル雇用であることを明記することが必要です。
そして、トライアル雇用実施計画書を2週間以内に提出することが必要であり、その内容としては「どのような計画で実施するのか」「どのような訓練や指導をするのか」「常用雇用に移行するための条件」などの明記が必要です。
その内容をしっかりと労働者の方にも見てもらい、同意が必要になりますので、注意しましょう。
まとめ
創業初期は中核メンバーからの紹介などリファラルで採用を進めていくことが多いと思いますが、いずれ外部からの採用が必要になる時期がやってきます。
ここまでご紹介してきたとおり、トライアル雇用助成金を利用するためには様々な条件があるうえ、書類の申請も必要になり、それなりの手間がかかりますが、トライアル雇用助成金を活用していくことで、企業側はリスクを抑えつつ積極的な採用が可能になるため、採用の幅を広げていくことが可能です。
新規人材を雇用する際は、トライアル雇用助成金を視野に入れて検討してみてください。