経営革新計画という名前を聞くことがありますが、いったいどういうものなのでしようか。
ここでは、経営革新計画についての説明と、その承認を受けることによって得られる支援策、および申請の方法と流れについて説明していきます。
目次
経営革新計画とは
まず、経営革新計画とは何を指すのでしょうか。
経営革新計画とは、中小企業新事業活動促進法に基づいて、中小企業庁が支援している、中小企業において、経営革新を行うための具体的な計画を指します。
経営革新とは「事業者が新事業活動を行うことによって、その経営の程度を相当程度の向上を図る事」であり、それを具体的な計画に落とし込んだものが経営革新計画となります。
新事業活動にも定義があり、新商品の開発または生産、新役務の開発または提供、商品の新たな生産または販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入・その他新たな事業活動に該当するものが対象となります。
これらは、ここの中小企業にとって新たな取り組みとなれば既に他社が採用しているものであっても原則として対象となりますが、業種毎または同一地域内で相当程度普及しているものの場合には対象外となることがあります。
経営の相当程度の向上についても具体的な指標が必要であり、付加価値額(もしくは一人当たりの付加価値額)の伸び率、経常利益の伸び率が、その基準となります。
計画立案・実施によって、中小企業の経営の程度を向上させ、日本経済を底上げすることが目的です。
経営革新計画の認定を受けるメリット
自社の計画なので、自社の経営改善に資することがまず一番のメリットです。
その上で、政府や公的機関が行っている各種支援について、経営革新計画の認定を取得することが利用する条件となっていることがあり、そのような支援を利用して経営改善を進めやすくなる事も大きなメリットとなります。
経営革新計画の認定取得をすることで受けられる支援には、以下のようなのがあります。
1.融資、保証などの支援
信用保証制度の特例
経営革新計画の承認事業を行うために必要な資金融資の信用保証に関して、通常の保証枠とは別枠で最大2.8億円(普通保証2億円+無担保証0.8億円※1社単独の場合)の支援枠が設けられます。
日本政策金融公庫の特別利率
日本政策金融公庫(中小企業事業・国民生活事業)の融資を受ける場合に、新事業活動資金・新事業活動促進資金の制度を利用することで、特別利率が適用となります。
高度化融資制度の利用
経営革新計画の承認を受けて組合などで指定された高度化事業*に取り組む場合、高度化融資制度を無利子で利用できます。
※高度化事業:中小企業者が共同で工業団地を建設したり、商店街にアーケードを設置する事業など、同じ目的をもつ企業同士で組織する中小企業組合等のグループに対して都道府県と中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」)が協力して、事業計画に対する助言と施設の設備資金に対する融資で支援する事業
食品流通構造改善機構による債務保証
食品製造業者の場合には、金融機関から融資を受ける場合に食品流通構造改善機構による計画に必要な資金に対する債務保証を受けることができます。
2.海外展開に伴う支援
スタンドバイクレジット制度に対する支援
中小企業者の外国関係法人が海外の金融機関から1年以上の長期借入する場合に、日本政策金融公庫によるスタンドバイクレジット(信用状)*の発行を受け、その債務を保証してもらうことができます。
※スタンドバイ・クレジットは、債務の保証と同様の目的のために発行される信用状です。中小企業(国内親会社)の海外支店又は海外現地法人(以下、「海外現地法人等」という)が海外金融機関から現地流通通貨建ての融資を受けるに当たり、日本政策金融公庫が提携する海外金融機関に対して信用状を発行いたします。これにより、海外現地法人等による海外での現地流通通貨の円滑な調達が可能になります。
中小企業信用保険法の特例
国内の金融機関から融資を受ける場合に、海外投資関連保証の限度額が通常よりも引き上げられます。
日本貿易保険(NEXI)による支援措置の適用
中小企業者の外国関係法人が日本貿易保険による海外事業資金貸付保険を付与する仕組みを利用することができます。
3.投資、補助金などの支援
起業支援ファンドからの投資の可能性
民間が運営するファンドに中小機構が出資し、そのファンドからの投資対象(株式や新株予約権付社債等による資金調達)としての検討とハンズオン支援の可能性があります。
中小企業投資育成株式会社からの投資の可能性
原則、中小企業投資育成株式会社からの投資を受けられるのは資本金の額が2億円以下の株式会社になりますが、3億円を超える場合であっても投資対象になります。
経営革新に関係する補助金を受けることができる
国全体としての経営革新に対する補助金はなくなりましたが、各都道府県の中には経営革新計画を対象とする補助金を運用している場合があります。
4.販路開拓の支援
販路開拓コーディネート事業による支援
中小機構による商社・メーカーOBによる販路開拓支援が受けられます。
新価値創造展への出展
中小機構が行うイベントへの出展審査時に加点対象となります。
5.その他の支援
特許関係料金の減免
経営革新計画に関して出願する特許申請について、審査請求料および1~10年の特許料について、半額免除の制度があります。
ものづくり補助金における加点・優遇措置
ものづくり補助金の審査において有効な期間の経営革新計画承認による加点があったり、補助率アップ(1/2以内→2/3以内)の優遇措置があります*。
※平成31年度「ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金」(2次公募)時点
承認対象の企業
経営革新計画は、中小企業を支援するための枠組みであるため、中小企業者に該当する必要があります。
中小企業に該当する事業者の定義は、中小企業基本法において、業種毎に資本金・従業員数の条件が定められており、それに該当する企業・個人事業主が対象となります。下表の資本金基準又は従業員基準のいずれか一方を満たす必要があります。
主たる事業を営んでいる業種 | 資本金基準 (資本金の額又は出資金の総額) | 従業員基準 (常時使用する従業員の数)* | |
製造業、建設業、その他の業種 | (下記以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
ゴム製品製造業 (自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルトを除く) | 3億円以下 | 900人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
サービス業 | (下記以外) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
ソフトウエア業又は情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 | |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 | |
小売業(飲食業含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
東京都産業労働局 – 対象となる中小企業
※常時使用する従業員には、事業主、法人の役員、臨時の従業員を含みません
承認までの流れ
経営革新計画の承認までの流れとしては、以下のようになります。
1.経営革新計画策定の準備
経営革新計画を策定する前に、自社の内容をよく吟味して、計画策定に向けた準備をしていく必要があります。自らの現状のポジショニングも考え、経営内容を刷新するために適切な新規事業を計画対象として選定すべきです。
経営革新計画には、他社との共同・協働によって複数社で実現する計画もその対象となることから、構想した新規事業に対して、自社リソースで対応すべきか、他社との連携の中で対応すべきかも含め、幅広い視点で検討することが必要です。
経営革新計画の立案にあたっては、申請窓口である都道府県のほか、その地域で経営革新計画策定のコーディネーターを中小企業診断士などが委託されて行っているケースもあるため、そのような支援策を利用することも有効です。
2.経営革新計画の策定
経営革新計画の方向性を定めたら、経営革新計画を策定します。
経営革新計画には所定のフォーマットがあり、申請書と別表1~7で構成される計画書を作成する必要があります。
その際に検討すべき事項は以下の事項です。
計画の概要と付加価値向上目標(別表1)
経営革新計画における事業の概要と、その計画実施前後の付加価値額・経常利益額の向上額を記載する必要があります。
実施計画と実績(別表2)
経営革新計画として実行する実施内容と評価基準・周期および実施時期を整理して記入します。
計画が採択された後は、実績欄にも記入し、その進捗を管理することが必要です。
経営計画および資金計画(別表3)
経営革新計画の実施による業績の進展について、計画値を算定します。
収支計画部分と資金調達計画部分があり、経営革新計画の実施による将来の収支計画と、付加価値額・一人当たり付加価値額・経常利益額の推移および、必要な資金の調達計画を記載します。各指標の計算方法は以下の通りです。
・付加価値額 = 営業利益+人件費+減価償却費
・一人当たり付加価値額 = 付加価値額÷従業員数
・経常利益 = 営業利益-営業外費用(支払利息・新株発行費用)
※本業からの関連性が低い収益は経常利益に含まないこととされています。
ここで算定された額が別表1で記載する付加価値額および経常利益の向上額となります。
設備投資計画および資金計画(別表4)
経営革新計画に基づいて、必要となる設備投資額および運転資金必要額についても記載します。
それらを数値計画として策定する他、研究開発に関する負担金の設定や、希望する支援策に対する要望事項などを取りまとめ、所定のフォーマットに記載して提出することとなります。
3.経営革新計画の承認申請
経営革新計画の承認は、基本的には、本店が所在する都道府県における担当部署への申請となります。ただし、複数社で共同・協同して申請する場合には、その関係性によって申請先が異なる事があります。
経営革新計画の承認については、形式審査・内部審査を経て、毎月1回の審査会での決定に基づき、通常1カ月程度で認可されます。
ただし、審査での否決・修正などが必要となるケースも考えられるため、各種支援策の利用を含めて経営革新計画の認定をとる場合には、十分に余裕を持ったスケジュールで臨むことが無難です。
まとめ
以上、経営革新計画について、その考え方と支援策・計画策定内容と申請方法についてまとめました。
支援策の利用のためという側面もあるものの、新事業へのチャレンジを通じて、中小企業の経営を革新していくことが、経営革新計画の目的です。
しっかりと自社の事業活動に向き合って計画を立案し、今後の事業の進展につなげていくことが肝要です。