起業家が日本政策金融公庫の創業融資を受けようとするとき、審査に通る重要なポイントは何だと思われますか?
それは「創業計画書をいかに上手く作るか」と「融資面談をどれくらい上手く乗り切るか」の2つです。この2つの点は審査における盾の両面であり、どちらを欠いても日本公庫の創業融資審査を通ることは難しくなります。
そこで今回の記事では、この重要な審査ポイントのうち、日本政策金融公庫の融資面談に焦点を当て、融資面談がどのように進められるのか、融資面談では何を聞かれるのか、また面談に際し何を準備したらいいのかなど、起業家が知りたい点を網羅して解説します。
これを読めば少なくとも融資面談の疑問点はほぼすべて解消するはずです。
目次
日本政策金融公庫の融資面談はどのように行われるか?
日本政策金融公庫(以下日本公庫、または公庫)は財務省所管の政府系金融機関で、中小企業・個人事業主を対象に、経済の発展振興を目的として融資活動を核に幅広い支援活動を行っています。
そのため日本経済の起爆剤ともなり得る起業家にも、創業融資を通じてサポートを行っており、多くの貸出実績があります。
ところで創業融資に係り、日本公庫の融資面談はどのように進められるのでしょうか?
それは原則、創業計画書の記載項目の流れに沿って行われると考えて下さい(ただし審査担当者によって内容や順番が変わることもあります)。
以下が公庫の創業計画書の各項目です。
1.創業の動機
2.経営者の略歴等
3.取扱商品・サービス
4.取引先・取引関係等
5.従業員
6.借入れの状況
7.必要な資金と調達方法
8.事業の見通し
一般的な融資面接では、上記記載項目の順番に沿って面談が進むと考えられます。
ただし日本公庫の利用者も多く、融資担当者との面談時間はそれほど長く取れないので、平均して1人当たり、概ね30分〜1時間程度と考えて、その中で双方、必要なことをきちんとやりとりする必要があります。
また担当者によって質問の仕方も変わりますし、聞きたいポイントも業種によって違います。
それほど長くない面談時間の中では、担当者が全ての内容を掘り下げて聞くことも難しいので、審査スタッフもある程度、中身を絞って聞いてくると思います。
それだけに面接を受ける起業家は、どこから質問を受けても極力淀みなく答えられるよう、裏付けとなる資料もそろえて、十分段取りしておく必要があります。
日本政策金融公庫の融資面談では何を聞かれるか?
起業家が創業計画書を作成して出すのに、なぜわざわざ公庫が融資面談するかというとそこには明確な理由があります。
それは文面を読むだけでは分からない部分を、面接を通して担当者が直接確認したいからです。チェックしたい事項のひとつに起業家の創業にかける覚悟・本気度の確認があります。
また事業によっては、公庫担当者が創業計画書を読むだけでは事業内容がよく分かないものがあり、面談の機会を通じてその内容を詳しく本人から聞き取ろうとします。
このように融資面談にはそれなりの理由があり、起業家はその質問の意図をよく理解して、的確に答えねばなりません。
一般的な融資面談では、下記記載項目の順番に沿って面談が進むと考えられます。
以下ではその順番に沿ってそのポイントを解説しています。ぜひ面談時の参考にして下さい。
融資面談で聞かれそうな項目
融資面談で聞かれそうな項目を9項目取り上げて、そのポイントを詳しく解説しています。
ぜひ面談時の参考にして下さい。
【聞かれそうな項目一覧】
・起業の動機
・起業家の事業経験や強み
・事業内容と今後の展開
・どのくらい潜在顧客を見込んでいるか
・個人的なローン等の借入れ・返済状況
・自己資金の調達方法
・預金通帳の動き
・資金調達の見込み、資金繰りなど
・創業地と実際の事業場所は同じか?
起業の動機
一般的に何ごとも始めるときには動機があります。起業もまた同じです。
創業者が「起業を通じて社会に貢献したい」「ビジネスを通じて自己実現を図りたい」など感じたとき、きっとそれが起業を思いついた動機となっていることでしょう。
面接者に起業の動機を聞かれたら、その動機をしっかり自分の口を通して伝えて下さい。創業者の起業に掛ける熱い思いを面接者が感じたら審査にはきっと良い影響があるはずです。
起業家の事業経験や強み
起業前の場合、公庫担当者には創業融資の判断の拠り所にする事業実態が何もありません。
そのため担当者が融資の判断に際し頼りとするのは、その創業者が起業予定の業界でどれだけ経験を持っていたか、あるいは経験がなくてもそれに変わる何か強みを持っているかなどが鍵になります。
起業家に業界の起業体験があれば、長ければ長いほど面接者に対して説得力があるし、仮に経験がなくても、他業種で社会的に高度な仕事をしてきたということをアピールすれば良い印象を与えることができます。
事業内容と今後の展開
起業予定の事業内容そのものは創業計画書に書かれているので面接者がそれを読めば分かります。
ただしいくら読んでも理解するのが難しい業種(IT系など)もあるので、その場合は起業家が自ら自分の言葉で詳しく事業内容について面接者に説明する必要があります。
また今後、事業がどのように具体的に展開していくか、その動きを面接者に生の言葉で伝えることも必要です。
面接者が起業後の事業の動き・展開を頭に描くことができなければ、公庫内で説得力ある稟議書を書くことはできません。
内容が曖昧なまま書類を上げられても、公庫内で最終決済権限を持つ支店長にとっては理解不能となるでしょう。面談でいかに事業内容と今後の展開がうまく説明できるか、起業家の説明力が審査の鍵になることは間違いありません。
どのくらい潜在顧客を見込んでいるか
起業前にすでに獲得済み、あるいは獲得見込みの顧客はあるのか、あるとすればそれは当初の売上げ全体のどれくらい占めるのか、またはこれから顧客を獲得する予定なら、どれぐらいの期間で当初の見込みを達成できそうか、さらにその開拓方法は、などが融資面談で聞かれる可能性が高い質問事項です。
それぞれ質問に合わせて、顧客見込みリストやテリトリーを分析した資料など持参しておけば、面接者に対して説得力が上がります。
個人的なローン等の借入れ・返済状況
融資面談では、創業資金申込時、すでに法人成りしていて、他社で事業資金の借入れがあれば、その内容を確認されますし、個人としても住宅ローンやカードローン、クレジットカード等の利用状況を聞かれます。
その際の面接者のチェックポイントは、過度な借入れはないか、利用状況は適切かなどです。
また質問に対してやっていけないことは小さくてもうそをつくこと。事実をしっかり話して下さい。
日本公庫も融資機関として、民間金融機関同様、個人信用情報機関に加盟して情報を得ているので、申込者の信用商品の契約状況や返済状況はいつでも照会できます。
つまり公庫は現在では申込者の全ての債務状況を把握できるので、下手な隠しごとをすれば、それは「信頼できない人物」として即審査に悪く影響するのです。
自己資金の調達方法
自己資金に関して、たとえば日本公庫の新創業融資制度では、開業に伴う資金総額の1/10以上の自己資金を準備しておくことが必要です。
そして融資面談では、起業に向けて創業者がどのような経緯で自己資金を貯めてきたか、そのプロセスを厳しくチェックされます。
自己資金を貯めてきたその方法や計画性を見て、起業に掛ける熱意や起業は思いつきでないことを面接者は知ろうとします。
その際、面接者にいい格好しようとして、どこかから借りてきたような多額のお金を通帳に入金しておいて、それを「自己資金」だと言い張ることは間違っても絶対やらないようにして下さい。
これは「見せ金」という行為で審査には逆効果です。公庫担当者もプロなので、色々な方向からチェックして見せ金であることを見破ってしまいます。
逆に自己資金を積立て等でコツコツと貯めてきたということが通帳で分かれば審査では高く評価されるのです。
預金通帳の動き
公庫の融資面談では、法人個人問わず、利用している通帳の動きをチェックされます。そのため面談では通帳の動きが最低過去3~6ヶ月以上分かるものの持参を求められます。
チェックの中身としては、公共料金、税金、保険料等の支払い状況を見て、起業家としての資金管理能力を見られますし、過度な遊興費や賭けごとへの出費がないかどうかもチェックポイントです。
人間というものは正直なもので、そのような過去の資金の動きや支払い状況を見れば、自ずとその方の資質も分かってくるので、起業家として公庫がお金を貸してもいい方かどうか、通帳チェックは立派な判断材料になります。
資金調達の見込み、資金繰りなど
融資面談では創業に係る全体の資金調達の達成のめどについて聞かれることもあります。
もちろん創業計画書を見れば全般的な資金計画は分かるのですが、起業家への質問を通じて、その調達過程に無理はないか、本当に信頼できる話なのかを面接者は感じ取ろうとするのです。
またこれから起業を目指している創業者には嫌らしい質問かも知れませんが、創業計画がうまく進まなかった場合、どのように資金繰りを立てるつもりか、その場合、公庫への返済は可能かなど、あえて意図して面接者が質問してくることもあります。
起業の過程では当初には予想も付かなかったことも起こります。面接者は意図的に嫌な質問をぶつけることで創業者の緊急時の対応力を見ていることがあるので、そのようなときでも慌てず落ち着いて淡々と答えるようにして下さい。
創業地と実際の事業所は同じか?
融資面談で聞かれることのひとつに「創業地と実際の事業場所は同じか?」という点があります。
また違う場合はその理由も聞かれるので、起業家はきちんと根拠を示して質問に答えて下さい。
なぜ聞かれるかというと、公庫面談者が面接後にその場所を実地訪問する可能性があるためだからです。
一般的に融資面談を行ったスタッフが、その創業融資案件の公庫内での起案者になりますから、事業所を実際に訪問することで、よりリアリティのある稟議書類を書こうとします。
面接者がわざわざ時間を作って創業地に行っても、実際の事業所と場所が違っていれば無駄足を踏ませることになります。また起業家に対する印象も悪くなってしまいます。
そのようなことにならないよう、起業家は必要な情報を事前に日本公庫にきちんと伝えるようにして下さい。
日本政策金融公庫の融資面談に際し準備すること
書類
上記の融資面談を踏まえて、起業家が事前に準備し面談時に持参しなければならない書類をまとめてみました。これらの書類がそろっていれば、一般的な公庫面接はこなせるはずです。
・本人確認書類(運転免許証等)
・印鑑(申込書に押印用)
・創業計画書(税理士等の事前チェックがあればなお良し)
・店舗、事業所等の所在地の地図写し
・不動産等賃貸契約書(事業所等が賃貸物件の場合)
・資格証明書(理容業、飲食業等、開業予定の事業内容によって持参するものが変わる)
・個人預金通帳または当座預金明細表(最低過去3~6ヶ月以上の動きが分かるもの)
・住宅ローンや自動車ローン等、個人ローンの返済明細表
服装
融資面談に臨む際は、「面談者の心証が悪くなる服装を避ける」ように心掛けましょう。
起業家が汚いズボンやしわだらけの衣服で面談者に会えば印象が悪くなるのは当たり前です。
清潔感・信頼感を感じられる派手でない髪型・服装を選びましょう。
日本政策金融公庫の融資面談の結果はどのように連絡が来る?
公庫の融資面談の結果は、通常面談実施後10日~2週間後に原則郵送で届きます。面談実施後の現地調査等にかかる時間が長い場合は、結果連絡まで時間を要することもあります。
融資の結果連絡を受け取ったら、届いた必要書類に記入し公庫へ返送します。
追加融資を受ける際は面談はなし?
追加融資を受ける際も面談はあります。
なぜ追加融資が必要なのか、現状の確認、今後の事業計画などについて聞かれます。
一度目の創業融資の審査で基本的な企業概要や事業内容についてはヒアリング済みのため、時間は短縮されることが多いです。
まとめ
日本政策金融公庫の融資面談に焦点を絞り、その進め方、質問される内容、聞かれたときの対応などについて詳しく解説してきました。
融資面談を通じて日本公庫には「この創業者は本当に創業資金を貸していい人物か」「信頼に値する相手か」どうかを問われます。
その際、創業者が絶対やっていけないことが以下の2つです。
・尊大な態度、感情的な言動
・うそをつくこと
こういった言動に起業家の資質があらわれてくるので、日本公庫の担当者は服装や受け答えの態度も含めて注意深く観察しています。誠実な態度で面談に臨みましょう。
日本政策金融公庫の融資面談では、これまで解説した点をよく理解してぜひ活かすようにして下さい。