事業計画書(含む創業計画書)は、事業資金に係る融資を金融機関から受けるときの重要書類です。
とりわけ起業に伴う創業融資の申込みでは、事業としていまだ実態がないので、金融機関の審査担当者に「なるほど」と思わせ、審査が通過するレベルの創業計画書を出す必要があります。
つまり創業計画書の出来映えの善し悪しが融資の可否を決定づけると言っても過言ではないのです。
また創業融資は、国の公的機関である日本政策金融公庫から銀行・信用金庫等の民間金融機関まで幅広く取扱いしており、審査にあたり全ての機関で創業計画書の提出が必要になります。
そこでこの記事では、創業計画書の書き方のポイントについて、創業融資の貸出実績が多い日本政策金融公庫(以下日本公庫)を事例として取り上げ詳しく解説します。
この創業計画書の作成ポイントが分かれば、他の融資関連機関(銀行や信用保証協会等)で提出が義務づけられている創業計画書の書き方にも広く応用できると考えています。
目次
創業計画書とは
創業計画書とは、起業に伴う事業資金を融資で金融機関から借りるに当たり、提出が義務づけられている必要書類のひとつです。
百聞は一見にしかずで、まずは日本公庫のサイトから創業計画書のフォーマットをダウンロードして確認するところから始めましょう。
創業計画書のひな型や記入例は、日本政策金融公庫公式サイトよりPDF形式またはエクセル形式でダウンロードできます。
エクセル形式だと、記載で計算が必要な箇所が自動計算されるよう組まれているので、間違いも見つけやすくとても便利です。
創業計画書の記載項目
日本公庫の創業計画書は以下の8つの記載項目から構成されています。
創業者が一つずつ空欄を具体的な内容で埋めていくことで、全体として「起業予定の事業が一体どのようなものか」「どんな資金計画で、起業後、どのように事業が展開していくか」誰が読んでも分かるように作られています。
1 創業の動機
2 経営者の略歴等
3 取扱商品・サービス
4 取引先・取引関係等
5 従業員
6 お借入れの状況
7 必要な資金と調達方法
8 事業の見通し
高確率で融資を受けるための創業計画書のポイント
前章で創業計画書の記載項目は分かりましたが、記載に当たって単純に空欄を埋めていけばいいというものではありません。
審査する側に「なるほど」と思わせるような、審査のツボを押さえた創業計画書を作る必要があります。
なぜならそれがまさに高確率で審査に通り融資を受けることにつながるからです。
ところで、全ての記載項目を個別に解説すると、説明が広範囲になり本当に説明したいポイントがぶれてしまうリスクもあるので、今回は記載項目をあえて4ポイントに集約し、重要な点に的を絞って解説します。
ポイント1:創業の動機、経営者の略歴等
ポイント1で取り上げるのは、創業の動機、経営者の略歴等に係る書き方のポイントです。
創業の動機が弱いと審査者に思われると審査に通りにくくなるので、起業への思いが強いように書く必要があるし、創業者の過去の略歴も今回の起業につながっていることをできるだけ具体的に描くことが望ましいです。
【書き方のポイント】
・起業の本気度が伝わるよう、やや大げさでもいいので強めに起業に対する意欲を書く
・略歴は抽象的でなくできるだけ具体的に書く(勤めていた会社名や期間など詳細に)
・起業する業界の斯業経験がなくても、ただ「なし」と書くのでなく、これまでの会社人としての経験(営業○年、商品開発○年)や持っている資格などアピールできるものを書く
ポイント2:取扱商品・サービス、取引先・取引関係等
ポイント2で取り上げるのは、取扱商品・サービス、取引先・取引関係等に係る書き方のポイントです。
ここでは起業後、どんな特色ある商品・サービスを取り扱うのか、また確定済みの取引先はあるのか、ない場合はどのようにして開拓するかその方法(集客方法)なども、できるだけ詳しく書きます。
【書き方のポイント】
・どんな点に惚れ込んでその商品・サービスを選んだのか、詳しく書く
・同業他社と比べた取扱商品・サービスの強みは何か、できるだけ専門用語を避けて説明する(カタログ、パンフレットなど添付すればより説得力が上がる)
・取引先との回収条件、支払い条件なども、できるだけ詳しく書いて、創業者として売上げや仕入れに係る資金の動きもきちんと把握できていることを日本公庫にアピールする
ポイント3:必要な資金と調達方法
ポイント3で取り上げるのは、必要な資金と調達方法に係る書き方のポイントです。
起業の関連項目にはどのようなものがあり、個別にいくら必要か、詳細に創業計画書に盛り込まねばなりません。またその際、必要な資金に対して、どのように調達するのか、その内訳もきちんと書く必要があります。
【書き方のポイント】
・起業に必要な項目が漏れなく書かれているかどうか注意すること、審査者に漏れていた項目をあとで指摘されると書き直しのリスクがある
・必要資金総額に対して自己資金の額は十分か、またそのバランスを事前チェック(自己資金が少なくても、また大きすぎても、審査者のチェックが入る)
・資金調達方法に関して、調達できる見込みの低いものは書かない(面談で審査者から各調達方法の確実度を聞かれるので、あとで調達できてないことが判明すると審査に影響する)
ポイント4:事業の見通し、借入れの状況
ポイント4で取り上げるのは、事業の見通し、借入れの状況に係る書き方のポイントです。
日本公庫の審査スタッフが創業者の書いた「事業の見通し」で確認したいのは、起業後も事業が順調に展開し、創業資金を延滞せずきちんと返済できるかという点です。
そのため予想売上や経費の算定根拠もしっかり確認されるので創業者も作成で手を抜いてはいけません。
また起業前に創業者が個人で住宅ローンや個人ローンを借りていたら、それも計画書の中にきちんと申告しておく必要があります。
日本公庫も個人信用情報機関に加盟しているので、個人の債務状況はすぐに把握できます。無申告だと、「この申込者は個人債務を隠した」と日本公庫に判断され審査落ちの理由になってしまいます。
【書き方のポイント】
・創業資金申込時、公庫融資含む全体の借入れは、無理なく返済できる範囲の借入額かどうか、審査者の視点に立って書く
・事業の見通しを書くとき、創業当初の損益状況、及び創業から1年後(または経営が軌道に乗った後)の損益状況の試算を数字で示すことになるが、必ず最終利益で融資の元金が返済できる姿を書いておくこと
また記載時、予想売上高が過大になっていないか、予想経費を過小に見積もっていないかなどにも注意を払い、審査者からその点で指摘を受けたりしないよう、出す数字には十分配慮して下さい。特に予想利益は必ず黒字で出しておくことが必要です。
最初から利益が赤字になった創業計画書を出されると、日本公庫の担当者も「なんで返済財源のない創業計画に対して融資できるのか?」となって創業者自ら、審査落ちの種をまいてしまうことになります。
創業計画書記載のNG例と改善案
この章では「こんなこと書くと審査担当者の心証を悪くして審査に落ちやすくなる」というNGな記載例と、そうならないような改善案を紹介します。
ただしNG事例は様々考えられるので、下記で示した4つの例はあくまでその一部に過ぎないということをご承知下さい。
過去に事業で失敗した経験を隠して「経営者の略歴等」欄に記載しない
過去に事業で失敗した経験があるのにそれを「経験者の略歴等」欄に申告せず書かなかったとき、審査中に日本公庫にばれると、信用を失って審査で落ちてしまうことがあります。
日本公庫も複数の個人信用情報機関から色々な情報を得ているので、その履歴から申込者が過去に事業を失敗したこと(債務整理や代位弁済等※)を知れば、もしそれを申告していなかったとき、創業融資の審査に逆効果になります。
もちろん事業で失敗したことは恥ではありません。
新しいことにチャレンジすれば失敗することもあるのは世のならわしです。むしろそれを隠すことのほうが審査する側の不信につながります。
このような場合、過去の履歴を正直に申告することが唯一の改善案です。
※債務整理:自己破産や個人再生等、法律で借金を棒引きや減額してもらうこと
※代位弁済:金融機関の借金を保証会社に肩代わりしてもらうこと
「必要な資金と調達方法」欄の左右合計が一致しない
「必要な資金と調達方法」欄で時々みかけるNG例ですが、「必要な資金」欄(左側)の合計額と「調達の方法」欄(右側)の合計額が違っている方がいます。
これは左右の合計額が一致するのが普通なので、どこか項目で間違った金額を入れている可能性があります。
このような書類を出すと、審査担当者に創業者の作った計画書の杜撰(ずさん)さを疑われるので、改善案として、公庫に書類を出す前には、必ず左右の合計額が一致するよう、各数字を間違いがないか再チェックして下さい。
またエクセル書式の創業計画書で作ると、自動的に合計欄も計算されるので間違いの発見が早くなります。
自己資金が大すぎる
創業計画書記載のNG例として「必要な資金と調達方法」欄に書く自己資金の額が、創業資金の必要総額に比較して大きすぎるというのがあります。
もちろん起業にあたり、金利を払う必要もない自己資金がたくさんあれば、経営的には安定しますが、一般的に創業時、自己資本に恵まれている方もそれほど多くないので、あまり自己資金の額が多いと公庫の担当者に「見せ金でないか?」と疑われてしまいます。
見せ金とは、要するに本人の自己資金でなく、審査で自分の立場をよく見せたり、審査通過の可能性を上げたりするため、他から(消費者金融など)一時的に借りてそのお金をあたかも自分の金のように見せかけたお金のことを言います。
もちろん借金ですので、公庫の審査が終わったら、すぐに返済して自分の手元には一切残らないお金です。こういう行為はまさに詐欺的行為であり、審査側としては最も嫌う行為なので絶対やってはいけません。
改善案としては、日ごろから起業を意識して定期的にお金を通帳に積み立ておくと、起業目指して計画的に自己資金を貯めてきたと公庫が見なしてくれるので、仮に積み立てた金額は少なくても審査では効果的です。
また自宅等に保管している現金など、いわゆるタンス預金はいくらあっても、公庫には自己資金として分からないので、できるだけ通帳に入金して視覚可しておくのもいいと思います。
売上げや経費の数字の根拠があいまい
「事業の見通し」欄を書くとき、売上げや経費の数字の根拠があいまいなまま、数字を書いてしまうのも典型的なNG例です。
創業計画書は、事業の実態がない分、一般的な事業計画書よりさらに緻密な数字の記載が求められます。書かれる数字のひとつひとつにしっかり根拠が示されなければなりません。
もちろんこれから起業するので、不確定な要素もあり、公庫担当者も完璧な数字までは求めないでしょう。
しかし起業する業界ごとに売上高や掛かる経費の額など、一定の平均値というものがあります。
それを無視して創業者に都合の良い数字だけを計画書に並べても担当者は簡単には納得してくれません。
これに対する改善案としては、いったん自分で創業計画書を書いた後、業種ごとに売上高利益率等の平均値が分かるサイトがあるので、それを参考に自分の作った数字が平均と大きく乖離していないかチェックするのもひとつの方法です。
以下がその業種別平均値が分かるサイトです。
創業計画書の作成には「創業の手引き」を活用しよう
最後に創業計画書を作成予定の創業者にはとても便利で役に立つ一冊をご紹介します。
それが日本公庫発行の「創業の手引き」です。簡単にネットから手に入れることができます。
この手引きの中には、この記事の最初に引用した事例以上のさらに詳しい書き方例が用意されており、記載項目ごとの書き方に対するチェックポイントも利用できます。
創業計画書を書く際には、ぜひこの「創業の手引き」もかたわらに置き、できるだけ高確率で審査に通る計画書を書いてほしいと思います。
まとめ
創業計画書の書き方のポイントとして、日本政策金融公庫の創業融資に係る計画書を取り上げ、その記載内容、重要な記載ポイント、NGな記載例とその改善策など、詳しく解説してきました。
出した計画書が日本公庫に評価され、それによって公庫の創業融資を借りることに成功すれば、次回、銀行等から融資を受けるときにも事業計画書を書くことはそれほど苦にはならなくなっていると考えています。
それだけに創業者が創業計画書の書き方をマスターすることはとても大事です。
創業者には起業にあたり、しなければならないことは膨大にあります。
しかし事業資金の確保はその最も重要なイベントのひとつです。創業計画書の作成も手を抜かず、最後までぜひきちんとやり通して下さい。