金融機関が融資(含む創業融資)の審査をするとき、事業者がどの程度自己資本を持っているか、チェックするのが慣例になっています。
なぜなら融資の判定において、自己資本がどれくらいあるかが決め手になるときも多いからです。
また自己資本にも様々な増やす方法があり、貯め方によって早く増やせたり時間が掛かったりします。
一方自己資本の増やす方法によってメリット・デメリットがあるので、事業者はその特徴を踏まえて効率よく自己資本の充実を図らねばなりません。
そこでこの記事では、会社(含む起業者)が自己資本を増やす方法について、そもそも自己資本とは何か、自己資本が増えれば会社経営や融資審査にどう影響するのか、また増やし方のメリット・デメリットなどについて解説します。
これを最後まで読めば、自己資本に関して事業者はその重要性が分かり、さらに自己資本を増やそうと努力する気持ちになるでしょう。
目次
自己資本とは?
自己資本とは一言で言えば、株主が出したお金と会社が事業から生んだ利益から貯めたお金の合計のことを言います。
まずは自己資本を簡単に理解できるよう、法人の財務諸表書類から簡単な図を用意しました。

上記の図は経営者ならおなじみの貸借対照表です。バランスシート(B/S)とも言います。
貸借対照表は企業の財政状態を一覧にした表のことで、会社が調達した資金(負債+資本)が事業でどのように使われたか(資産)を一目で分かる構成になっています。
バランスシートは資産(借方/左側)と負債・資本(貸方/右側)から成りたっており、その関係は以下の計算式のようになっています。
資産=負債+(自己)資本
また負債の部は、他所から借りて資金を集めている状態を示し、将来返済義務のある借金を示しています。
一方自己資本の部は、自分でお金を集めた状態を示しており返済の必要がありません。したがって自己資本は自社の判断で色々な目的に自由に使うことができます。
さらに自己資本は、資本金(会社設立時に株主から出資で払い込まれたお金)と、その後の事業活動から得た利益で貯められた利益剰余金等に分けられます。
以上のような理由から、負債を他人資本、資本を自己資本と呼んで区分することもできます。
また資本(他人資本+自己資本)は企業活動を通じて色々な資産(流動資産+固定資産)に振り分けられているため、最終的には以下の公式が成り立ちます。
総資産=総資本
つまり総資本のうち、自前で自由に使える自己資本の額が大きければ大きいほど会社の経営状態が安定していることになり、融資の判定をする金融機関もその企業を高く評価できます。
自己資本比率の高さで会社の安全度や健全度が分かる
では自己資本の大きさを額だけでなく、業種ごと、さらに客観的に判断できる指標はないのでしょうか?
あります、それが自己資本比率です。
自社の自己資本比率を貸借対照表から計算して、同業平均値と比較することで、自社の自己資本充実度が分かります。
さらに自己資本比率から会社の安全度や健全度も分かるので、同業他社に劣るようなら、さらに自己資本を増やす方法を模索して、一日も早く平均以上の自己資本比率を達成しなければなりません。
以下が自己資本比率の出し方です。
・自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100
※総資本とは負債と資本の合計額のこと
もし自社の自己資本比率を同業平均と比較したいならこのサイトの数字が役に立ちます。
融資(含む創業融資)を受ける上でなぜ自己資本の充実が重要か?
この章では融資(含む創業融資)を受けるとき、なぜ自己資本の充実を図ることが必要か、その理由を説明します。
金融機関が融資の審査で重要視している要素のひとつが自己資本です。
なぜなら融資する企業の自己資本が少ないと倒産確率が上がるからです。
逆に自己資本が大きいと、自社の意思で自由に使えるお金の割合が増えるため、資金繰りにも余裕ができ、企業としても簡単には潰れません。
そもそも倒産する確率の高い会社に積極的に貸出したい金融機関などありませんよね。
さらに中小企業・零細事業者など、事業規模が小さい業者ほど自己資本が少ない傾向があるので、そのような先から融資の申込みがあると、金融機関は選別機能を高め審査をより厳格に行うようになります。
自己資本が小さいと、少しの赤字ですぐに自己資本を食い潰して債務超過(負債総額が資産総額を超える危険な状態のこと)に陥りやすいので、金融機関から融資を受けることが極めて難しくなります。
それを回避するためにも、事業者は日頃から自己資本を増やす努力をして、融資を受けやすい環境を作っておく必要があるのです。
ただし自己資本を増やす方法は様々ありますが、方法によってメリット・デメリットがあるので、内容をよく理解した上で自社に適した方法で自己資本を増やしていかねばなりません。
次章ではその自己資本を増やす方法とそのメリット・デメリットについて解説します。
自己資本を増やす方法とそのメリット・デメリット
事業者が自己資本を増やす方法として以下の7つの方法が上げられます。
また各方法についてメリット・デメリットもあるので、それぞれよく理解してから活用するようにして下さい。
資本増強策1…会社オーナーが個人のお金を追加出資(金銭出資)
自己資本を増やす方法として、会社経営者が自分のお金を追加で出資して資本金に充てる方法があります。
もちろん本人に追加出資できるお金の余裕があることが前提です。
・メリット
自分自身のお金を出すので意思決定が早い
・デメリット
資本金に変更があった場合、変更日から2週間以内に増資の登記手続きが必要になる
資本増強策2…親、兄弟、親類からの贈与金を追加出資として資本金に充てる
自己資金を増やす方法の2番目として、親兄弟、あるいは極めて関係が近しい親族から金銭的贈与を受けて、その金銭を出資して資本金に充てる方法があります。
なお、この項は親族等から贈与を受けた資金を資本金に充てるケースの説明であり、第三者である親族等が単に出資して増資する「第三者割当増資」とは区別します。
・メリット
家族や親族等、または姻戚関係のある先からの資金調達なので外部に依頼するのと比べて出資を頼みやすい
・デメリット
贈与後かつ出資後、正式な贈与契約書を交わしていないと、融資を受ける金融機関の審査担当者に「確認できる書類がない」と自己資金扱いを否定されるリスクがある
資本増強策3…第三者割当増資
自己資金を増やす方法の3番目は第三者割当増資です。
第三者割当増資とは、会社の資本金増強策のひとつで、株主かそうであるかを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与して、新株を引き受ける代わりに出資してもらう方法を言います。
一般的には、親密な取引先や取引金融機関、自社役職員等に引き受けてもらいます。
・メリット
第三者が出資してくれる合理的理由があれば資本金に充当可能
・デメリット
中小企業だと同族経営が多く、また株式の流動性(換金性)も低いので、株式の割り当て分を引き受けてくれる第三者を見つけるのがやや難しい
資本増強策4…みなし自己資金
自己資金を増やす方法の4番目は、「みなし自己資金」という考えを使って増やす方法です。
「見なし自己資金」とは、会社の設立前にすでに使ってしまっている運転資金や設備資金のことを指して言います。
これらの資金は、すでに事業に対する資金としては出費済みで手元に現金としては残ってないものの、別物に形を変えていて、たとえば機械設備や製品、在庫として残っていることも多いです。
その場合、資金を使った目的をきちんと現物や証拠書類をそろえて審査担当者に示せば、「見なし自己資本」として認めてくれる可能性は高いです。
・メリット
資金を出費後でも証拠を出して、自己資本として認めてもらえば、その分自己資本の額が増える
・デメリット
資金計画書、通帳、領収書などを使って審査担当者を納得させねばならない手間が増す
使った資金の目的が設備資金なら比較的証明は容易だが、運転資金の場合、すでに商取引に投入されて形がないものが多いだけに説明が困難なときが多い
資本増強策5…役員借入金を資本金に振替
自己資金を増やす方法の5番目は、役員借入金を資本金に振替処理して増やす方法です。
役員借入金とは、会社が自社の資金だけでは運営資金を全てまかなえきれないとき、役員個人のお金を一時的に会社が借りて運転資金等に充てたものなどをいいます。
会社が一時的に借りているので当然個人へ返済義務がありますが、中小企業の多くは同族経営で会社経営者が自分のお金を会社に貸していることが大半なので、回収せずそのままにしておくことも多いです。
そのため銀行等の融資審査では、融資担当者が役員借入金を返済義務のない資金として自己資本に組み入れ、行内で修正して自己資本比率を出している先もあります。
しかしこれはあくまで金融機関の独自の判断に過ぎません。
融資の審査書類や税務署への提出書類として社外にも出る貸借対照表なので、できれば役員借入金は期中の一時的な処理勘定にして、決算までには別の確定した勘定科目に振り替えてすっきりさせておくことが望ましいでしょう。
その場合使える方法が債務免除です。債務免除とは、会社が借りた資金を個人に返済せず、そのまま現物出資してもらって、会社の資本金に振り替える処理方法のことです。
そうすれば同時に自己資本も増えるので財務改善に結びつき一挙両得となります。中小企業の多くは同族経営なのでこのような財務処理が可能なのです。
・メリット
現物出資により資本金が増えるので自己資本比率が上がる
・デメリット
別途登記手続きが必要になる
債務免除益の発生で会社に法人税が課されるリスクがある
資本増強策6…個人所有資産売却代金を出資して資本金に充てる
自己資金を増やす方法の6番目は、個人所有の資産を売ってその売却代金を出資して会社の資本金に充てる方法です。
もちろん個人に譲渡・売却できる資産があることが前提になります。
個人の資産には土地建物等不動産、自家用車、ゴルフ会員権や株式、公社債等の有価証券など色々あります。
・メリット
所有資産をうまく売却できれば資本金に充てられる出資金が手に入る
・デメリット
所有資産の種類によって換金性に差があり、売りにくい資産ばかり所有しているとすぐに出資金が作れない
資本増強策7…売上増加、経費見直し等による利益改善
この章最後の自己資金を増やす方法は、会社の売上増加、経費見直し等による利益改善で地道に自己資本を増やしていく方法です。
当初に自己資本の中身を説明したように、広義の自己資本は資本金と利益剰余金等の合計から構成されています。
ここで利益剰余金とは、会社が事業で利益を上げた後、決算で株主に払った配当金を除く利益の残余分のことを言います。
会社が連続して利益を上げ続ければ、利益剰余金も貯まる仕組みになっているため、自動的に自己資本の額も増えていきます。
ただしこの方法は、売上増加や経費見直し等の継続的かつ地道な経営努力が必要であり、すぐに結果が出るタイプの方法ではありません。
一定の結果が出るまでに時間と手間が掛かる資本増強策と考えて下さい。
・メリット
オーソドックスな自己資本を増やす方法なので、融資を受ける金融機関の理解も得やすい
・デメリット
自己資本を増やすのに時間と手間が掛かる
利益が赤字になれば逆に自己資本比率が下がる
赤字が連続すると債務超過に陥り金融機関から融資が受けられなくなる
まとめ
自己資本を増やす方法として、具体的な増強策を7つ取り上げ、その方法やメリットやデメリットを解説してきました。
自己資本を増やしていくことは金融機関の融資(含む創業融資)審査を通りやすくする近道です。
それは間違いないことですが、同時にまた自己資本を増やすのが簡単でもないのが現実です。
そこで今回、記事において自己資本の具体的な増強策を述べましたが、事業者には、自己資本を増やす意義、その増強が融資審査に与える影響など十分知って、ぜひ自社に合った対策を取られることを期待しています。