日本政策金融公庫での創業融資(新企業育成貸付)とは?

日本政策金融公庫(通称日本公庫)は2008年10月に国民金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫というそれぞれ独立して異なる対象に融資を行ってきた政府系金融機関が統合してできた財務省所管の金融機関です。

国が運営している金融機関なので、銀行等、民間金融機関は融資しないものの、経済の発展や振興に欠かせないタイプの融資にも積極的に関わっています。

それが日本政策金融公庫の「創業融資(新企業育成貸付)」です。

事業の創業(起業)には倒産や廃業リスクがあり、民間金融機関では貸倒れリスクを嫌って融資に消極的ですが、起業がないと社会経済が発展しないため、日本公庫はこの分野にも積極的な融資を行ってきています。

そこで今回の記事では日本政策金融公庫の取り扱う創業融資に的を絞り、これから起業を目指している方を対象にできるだけ詳しく解説します。

創業融資を取り扱う金融機関はいくつかありますが、これを読めば日本公庫の創業融資についてかなり詳しくなり、起業に伴う資金調達の悩みが少しは解消すると思います。

また記事の後半では同じく創業融資を取り扱う地方自治体の制度融資との比較も行っています。

日本政策金融公庫(以下、「日本公庫」)とは国が所管する政府系金融機関です。

そのため貸出対象者が限られる民間金融機関と異なり、その融資対象はとても幅広く、創業融資(新企業育成貸付)を通じて起業者の必要とする資金調達にも深く関わっています。

日本公庫ではその成り立ちから、融資対象者別に国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業と融資制度が分かれており、たとえば国民生活事業では個人企業、小規模企業向けの小口融資でその1社当たりの平均融資額は700万円となっています。

また国民生活事業では短期(返済期間1年以内)の運転資金も取り扱っています。

一方、中小企業事業では中小企業向けに長期事業資金を取り扱っており、融資の平均額は1億円です。(日本公庫調べ)

この融資実態から分かることは、一般的な起業に必要な資金総額が500万円~2,000万円くらいなので、主たる起業者がまず融資を申込む先は国民生活事業だということです。※

日本公庫・国民生活事業では、起業者に「新規開業資金」ほか創業融資(新企業育成貸付)として5種類の融資制度を用意しているほか、これら融資制度と抱き合わせで利用できる「新創業融資制度」というオプションも準備しています。

次章ではこの創業融資についてさらに詳しく解説します。

※中小企業事業でも新企業育成貸付制度はありますが、1社当たりの融資金額も大きく、こちらは利用できる対象が業種及び規模(資本金・従業員)で定められているので、自社が融資対象となるかどうか確認したい場合はこちらを参考にして下さい

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公庫を通じて受けられる創業融資の種類と条件

以下の融資が創業時に公庫で利用できる主な融資制度です。
融資の種類、申込み対象、融資限度額、返済期間で一覧表にしてみました。

創業融資(新企業育成貸付)
・新規開業資金
・女性、若者/シニア起業家支援資金
・再挑戦支援資金
・新事業活動促進資金
・中小企業経営力強化資金

融資制度名申込み対象者融資限度額返済期間

(うち据置期間)

新規開業資金新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方7,200万円(うち運転資金4,800万円)設備資金:20年(2年以内)
運転資金:7年以内(2年以内)
女性、若者/シニア起業家支援資金女性または35歳未満か55歳以上の方で、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方7,200万円(うち運転資金4,800万円)設備資金:20年(2年以内)
運転資金:7年以内(2年以内)
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援資金)廃業歴等のある方など一定の要件に該当する方で、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方7,200万円(うち運転資金4,800万円)設備資金:20年(2年以内)
運転資金:7年以内(2年以内)
新事業活動促進資金経営多角化、事業転換などにより、第二創業などを図る方7,200万円(うち運転資金4,800万円)設備資金:20年(2年以内)
運転資金:7年以内(2年以内)
中小企業経営力強化資金新事業分野の開拓のために事業計画を策定し、外部専門家(認定経営革新等支援機関)の指導や助言を受けている方7,200万円(うち運転資金4,800万円)設備資金:20年(2年以内)
運転資金:7年以内(2年以内)
新創業融資制度新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方3,000万円(うち運転資金1,500万円)各種制度融資で定める返済期間以内

創業資金の利用例として、たとえば「新規開業資金」単独、あるいは「新規開業資金」+「新創業融資制度」という借り方ができます。

「新規開業資金」を借りる場合、条件として「新たに事業を始める方」または「事業開始後おおむね7年以内の方」となっているので、起業予定者以外にも創業後一定期間経って事業資金を借りたい方も対象になります。

これは創業資金の利用者を「起業予定者に限っていない」という点で日本公庫の融資を借りる上で大きなメリットになります。

また日本公庫には「新創業融資制度」というオプションがありますが、これは「無担保」「個人保証なし」で借りられる創業者にはとてもメリットの多い融資制度です。

銀行等、民間金融機関の融資では、ほとんどの場合、法人の借入れに対して代表者が連帯保証人になる必要がありますが、日本公庫の「新創業融資制度」ではこの代表者の個人保証が不要です。

代表者が借入れする法人の連帯保証人になると、法人が借金を背負って倒産した時、残りの債務を返済する義務が連帯保証人にかかってくるので、これから起業しようとしている代表者にとっては大きなストレスになります。

日本公庫の融資でこの個人保証を外せることは、これから起業を目指す方にはストレスの要因がひとつでも減らせるという意味で大きなメリットなのです。

一方、「女性または35歳未満か55歳以上の方であって、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」という属性を満たすことができる創業者の場合、「新規開業資金」でなく「女性、若者/シニア起業家支援資金」がおすすめです。

こちらは条件を満たすことができる方向けに意図して作られた創業融資なので、それでなくても社会的立場が弱い女性、若者、高齢の起業者にはありがたい融資制度だと考えています。

また融資制度が異なっているといって条件面で不利になることも一切ありません。

創業融資金利について

創業融資を含む日本公庫の制度融資の金利について若干触れておきます。

日本公庫では融資制度や条件別に複雑に金利を設定しているため、初めて主要金利一覧表を見た時「一体自社の金利はどれに該当するのだろう」と迷ってしまう方も多いと思います。

なぜなら基準金利以外にも特別金利枠がA~Uまで9タイプもあるからです。

しかし特別金利は、特定の条件を満たした方以外、ほとんどの方は関係ないのであまり気にする必要もありません。

なぜなら特別金利に該当する時は、日本公庫の担当者が「あなたはこの条件に合致しますよ」と親切に教えてくれるからです。

そこで金利に関しては、今は以下の数点だけきちんと押さえておいて下さい。

  1. 無保証扱いの方の基準金利 年2.16%~2.45%
  2. 融資に関して担保を提供できる方の基準金利 年1.21%~2.10%
  3. 新創業融資制度(無担保・無保証人)を利用する方の基準金利 年2.56%~2.85%
  4. 中小企業経営力強化資金(2,000万円以内の無担保・無保証人部分) を利用する方の基準金利 年2.26%~2.45%

※ 2020年1月6日現在
※「創業融資(新企業育成貸付)」の金利に関してはこちらを参考にして下さい。

融資実行までの流れ

この章では日本公庫の創業融資に関して、申込みから融資実行までの流れを解説します。
公庫ではおおむね以下の流れで融資の実行まで進みます。

①借入申込書の記入、創業計画書の作成
②日本政策金融公庫へ提出・
③審査担当者との面接
④審査
⑤審査結果の通知と契約
⑥融資実行

審査の流れの中で最も重要なことはいかにうまく創業融資の審査に通るかです。また、創業融資の審査では創業計画書の書き方がポイントになります。

なぜなら起業段階ではまだ事業としての実態がなく、これから事業が開始されるため、審査のポイントが創業計画書に集約されるからです。そのため創業計画書の出来映えが審査の合否につながると言っても過言ではないでしょう。

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他の制度融資との比較

最後にこの章では、日本公庫の創業融資と他の制度融資(創業融資)との比較をします。

前述したように創業融資を受けられるのは日本公庫だけではありません。以下の金融機関や組織でも創業融資は取扱っています。

・銀行、信用金庫等の民間金融機関
・銀行以外のノンバンク
・地方自治体(制度融資)

しかし民間金融機関は良くも悪くも実績主義なので、起業者のようにまだ売上げ実績が全くない対象者に対しては極めて冷淡で、融資の申込みをしても門前払いするのがほとんどです。

また銀行以外のノンバンク融資も、たしかに審査のハードルは低いですが、平均借入金利が年15%前後と高いので、起業からしばらくは利益確保が厳しい創業者には、借りてもこの金利の高さが事業の相当な重みとなることから創業資金としては疑問です。

そうなると最後に頼りになるのが地方自治体の取り扱う制度融資(創業資金)となります。

地方自治体の制度融資

地方自治体の制度融資は、都道府県(または市町村)と、信用保証協会、指定金融機関の3者協調の上に成り立っている融資制度です。

ただしこの制度では、地方自治体が直接融資を行うのでなく、地方自治体が窓口となる金融機関に対して税金から捻出した預託金を預けて、その預託金を担保に、金融機関が信用保証協会の保証を受けて対象者に融資を行います。

そのため信用保証協会付融資とも言われています。

ただし利用者が間違っていけないのは、この地方自治体の制度融資は、金融機関の一般的な信用保証協会付融資とは異なっていることです。

一般的な保証協会付融資は、利用者が自ら信用保証協会に保証料を払って信用保証してもらい、それを背景に銀行等から融資を受けます。

一方、地方自治体の制度融資は、保証協会から保証を受ける点では仕組みは同じでも、担保としての預託金のみならず、その保証料の全額あるいは一部を自治体の税金から補填してもらえる、利用者にはとても利便性の高い制度です(金利を一定期間、補填してくれる自治体もあります)。

しかも制度融資として自治体から斡旋を受けているので、金融機関も融資を断りにくい構造になっています。

いわば地方自治体の制度融資は、域内の中小企業者が金融機関から融資を受けやすくするための仕組みのひとつなのです。

もちろんこの制度融資はこれから起業を目指している方でも使えます。そこで以下では東京都の創業融資を事例に取り上げ、日本公庫の創業融資と比較します。

なお、東京都の創業融資「創業」が借りられると、信用保証料補助制度として保証協会に支払う信用保証料の2分の1が都から補填してもらえるので覚えておいて下さい。

まず以下が東京都の創業融資「創業」の概要です。

融資制度名申込み対象者融資限度額返済期間

(うち据置期間)

創業融資(対象1:創業前)事業を営んでいない個人で、1ケ月以内に新たに個人で、または2ケ月以内に会社を設立して東京都内で創業する予定の方
(対象2:創業後)創業した日から5年未満である中小企業者及び組合(個人で創業し、同一事業を法人化した方で、個人で創業後5年未満の方も含む)
(対象3:分社化)詳細省略
3,500万円
(融資対象1は自己資金に2,000万円を加えた額の範囲内)
運転資金:7年以内(1年以内)
設備資金:10年以内(1年以内)

利用条件としては、日本公庫の創業資金の方が会社設立から7年以内までと、やや長く借りられるので有利です。

融資限度額も日本公庫の創業資金の方が最大7,200万円(運転資金4,800万円)と東京都の制度融資3,500万円よりかなり大きく優位です。

また、返済期間も設備資金で見れば、日本公庫の創業資金の方が最長20年と有利な上に、据置期間も2年と東京都の制度融資の1年を上回っています。

起業者にとって、創業からしばらくは売上げも安定せず支払いばかりが先行する不安定な時期なので、借入れの元金返済が据置できる期間というのはとても重要です。

据置期間が長ければ長いほど返済猶予できるので、事業で入ってきた資金を他の目的に流用できます。

その点で日本公庫の創業資金の据置期間が最長2年というのはとても魅力的なのです。

また融資金利に関しては、逆に東京都の制度融資「創業」の方が優位にあります。

制度比較した結果、全体的には日本公庫の創業資金の仕組みが単純でかつ融資商品としての優位性もあり、創業者が初めに借りに行く機関としては日本公庫がおすすめです。

ただし両者とも国及び地方自治体が取り扱う融資なので手続きにはそれなりの時間がかかります。

日本公庫の融資では、申込みから実行まで最低でも1ヶ月、地方自治体の制度融資ならさらに長くなる可能性があると思って下さい。

両制度とも創業者には利用価値は高いものの、融資の実行まで時間がかかるだけに、十分な準備期間を取っておく必要があります。

まとめ

日本政策金融公庫の創業融資を、地方自治体の制度融資とも比較しながら、その概要や特徴、融資実行の流れまで詳しく解説してきました。

この記事をきっかけに起業される方がより深く創業資金に関心を持たれることを期待しています。