金融機関とは、広義には金融取引に関する業務を営む組織全般を指しますが、狭義には預貯金取扱金融機関を指します。本記事では後者の預貯金取扱金融機関を指して「金融機関」と呼びます。
ではその金融機関にはどのような種類があるのでしょうか?
一般的に金融機関の種類には、メガバンクや地銀等の銀行、信用金庫、信用組合などがあり、これらの金融機関は融資や預金業務だけでなく、送金等の為替業務も行っています。
少なくともその基本業務に大きな違いはありません。
しかしさらに深く中身を詰めていくと実は大きな違いが見えてきます。
今回の記事では、金融機関におけるその違いに焦点を当てて、「銀行」、「信用金庫」、「信用組合」の差を解説します。
目次
銀行(メガバンク・地銀)・信用金庫・信用組合の主な違い
今後の説明を分かりやすくするため、まずは銀行・信用金庫・信用組合の主な違いを一覧表にしてみたのでご覧になって下さい。
以下の各項目で比較しています。
・根拠法
・設立目的
・組織
・会員(組合員)資格
・業務範囲
区分 | 銀行 | 信用金庫 | 信用組合 |
根拠法 | 銀行法 | 信用金庫法 | 中小企業等協同組合法 協同組合による金融事業に関する法律(協金法) |
設立目的 | 国民経済の健全な発展に資する | 国民大衆のために金融の円滑を図り、その貯蓄の増強に資する | 組合員の相互扶助を目的とし、組合員間の経済的地位の向上を図る |
組織 | 株式会社組織の営利法人 | 会員の出資による協同組織の非営利法人 | 会員の出資による協同組織の非営利法人 |
会員・組合員資格 | なし | (地区内において) 住所または居所を有する者 事業所を有する者 勤労に従事する者 事業所を有する者の役員 <事業者の場合> 従業員300人以下または資本金9億円以下の事業者 | (地区内において) 住所または居所を有する者 事業を行う小規模の事業者勤労に従事する者 事業を行う小規模の事業者の役員 <事業者の場合> 従業員300人以下または資本金3億円以下の事業者(卸売業は100人または1億円、小売業は50人または5千万円、サービス業は100人または5千万円) |
業務範囲 | 制限なし | 預金は制限なし 融資は原則として会員を対象とするが、制限つきで会員外貸出もできる(卒業生金融あり) | 預金は原則として組合員を対象とするが、総預金額の20%まで員外預金が認められる 融資は原則として組合員を対象とするが、制限つきで組合員でないものに貸出ができる(卒業生金融なし) |
以下の章からは比較一覧表の内容に沿って各項目をさらに詳しく解説します。
根拠法の違い
上記一覧表の通り、各金融機関とも、異なる法律により運営されており、同じ金融機関と言っても大きな違いがすでにあります。
ただし業態を超えて監督官庁が金融庁であることは共通事項です。
設立目的の違い
設立目的も大きな違いがあります。銀行は株式会社なので基本的に営利が目的で作られています。
一方、信用金庫/信用組合は会員(組合員)間の相互扶助を目的として作られた非営利の組織です。
営利と非営利ではその目的が大きく違うので、組織としての活動にも大きな違いがあります。
組織の違い
金融機関として提供している金融サービスは同じようでも、経営理念が違うため組織の形態にも大きな違いがあります。
銀行の組織形態
銀行は組織として株式会社、営利法人の形を取っているため、事業で利益を出して株価を維持し、また株主に対して配当を行って出資している株主の利益をあげることを優先します。
また事業で利益を上げるため、できるだけ広範囲に取引を行うためにも、大企業を含む全国レベルでの企業取引、個人取引が可能です。
信用金庫の組織形態
信用金庫は地域の方が出資金を拠出して会員かつ利用者となり、相互に地域の繁栄を図る目的で組織された非営利・協同組織の金融機関です。
また取引できるのは原則、信用金庫の会員となっている地域の中小企業・個人などです。
そのため信用金庫は、たとえば京都に住んでいる方は東京の信用金庫は利用できないというイメージで理解することができます(ちなみに2020年1月現在、信用金庫で総資産ランキングの全国1位は京都中央信用金庫です)。
信用組合の組織形態
信用組合は、信用金庫と同じく、非営利・協同組織の金融機関ですが、その根拠法や組合員の資格が異なっています(信用組合では出資者を会員と呼ばず組合員と呼びます)。
出資金を拠出して組合員になることで信用組合の提供する各種金融サービスを受けることができます。
組織としては、信用金庫以上に協同組合的性格が強く、原則、組合員資格を持たないと信用組合の提供するサービスを受けることができないと言っても過言ではありません。
会員・組合員資格の違い
銀行や信用金庫/信用組合を会員・組合員資格の視点から見た場合の違いは以下の通りです。
銀行の会員・組合員資格
銀行は営利組織として利益第一主義を取っており、会員組織ではありません。
よって、顧客に対する対応(態度)はその銀行との取引具合、会社あるいは個人としての社会的信用度によって大きく変わります。
銀行との取引が充実している、会社として業績が良い、個人として信用度が高い仕事に就いているときなどには、銀行も優先的に好条件で融資に応じたり、その方にだけ特別な金融サービスを提供したりします。
信用金庫の会員・組合員資格
信用金庫は非営利組織なので、あくまで組織として利益が受けられるのは信用金庫の会員、すなわち信用金庫の地域に属する会員を対象としており、その会員の利益が優先されることになります。
信用組合の会員・組合員資格
信用組合も非営利法人であり、優先的に利益が得られるのは出資している組合員、すなわち信用組合がある地域の構成員の利益が優先される原則は信用金庫と同じです。
しかしその適用対象範囲が信用金庫と異なっており、組合員が事業者の場合、信用金庫よりさらに規模が小さい零細・個人事業主まで対象になるのが特徴です。
業務範囲の違いと利用者のメリット・デメリット
最後に銀行及び信用金庫/信用組合の違いを業務範囲の違いから解説します。
また合わせてそれぞれの組織のメリット・デメリットにも触れます。
銀行の業務範囲
銀行に関しては営業地域に制限はありません。
基本的に銀行がその地域に支店を出せば、支店廻りの一定地域がその銀行の営業ゾーンとなります。
ただし銀行も限られた経営資源の中で効率的な経営を心がけているので、目的なく出店はしません。
その結果、メガバンクは大手企業取引中心に大都市圏に店舗が集中する傾向が強く、一方地方銀行は地元企業との取引を基本に本店所在地がある地域に店舗が集中する傾向があります。
・預金業務…集める対象、地域に限定なし(ただし店舗の持つ特性上、業務は融資業務のみに特化して預金を集めない店舗もあり)
・融資業務…特に制限なし
銀行を利用するメリット・デメリットは以下の通りです。
銀行を利用するメリット
銀行の場合、法人個人問わず、取引する先が社会的信用度の高い顧客だと、銀行から低金利、高額、長期の融資が受けられます。
また企業の場合であれば、銀行から優良取引先の紹介が受けられて事業拡大を図ることも可能です。
その他、銀行では各種の金融商品、サービスが整っており、様々な顧客のニーズを満たすことができます。
銀行を利用するデメリット
事業の規模が小さく信用度が低い企業の場合だと、融資が受けられても金利が高い、担保等の条件も厳しいなどのデメリットがあります。
また融資を申込みしても、最悪の場合、厳しく判断され申込みが断られるか、融資が受けられても業況の悪化ですぐに融資が打ち切られるなど、審査ハードルが高いのも銀行の特徴です。
信用金庫の業務範囲
信用金庫は銀行と違い営業地域が一定範囲に限定されています。
そのため業務範囲に関しては以下のような特徴があります。
・預金業務…預金の受入れは対象者に制限なし、また集めた預金は融資等を通じて地域の発展に活かされる
・融資業務…原則として会員を融資対象とする、ただし一定の条件の下、会員以外でも融資可能(卒業生金融*)
※卒業生金融:信用金庫が融資するとき、会員以外の者に貸出しする行為
信用金庫の会員企業で長年融資取引があり、企業の成長等に伴い会員資格の範囲を超えてしまった場合、直ちに融資を受けられなくなるのは事業に支障を来すことから、1968年、国により制度として認められました。
会社の成長等で資本金、または従業員数が一定範囲を超えると信用金庫の会員資格は失うものの、融資実績があれば一定期間内はそのまま融資を受け続けることができます(会員期間が3年以上5年未満→脱退時から5年間、会員期間が5年以上→脱退時から7年間)。
信用金庫を利用するメリット・デメリットは以下の通りです。
信用金庫を利用するメリット
融資に関しては、信用金庫は相互扶助組織なので、会員である限り、多少業況が悪くなっても融資が受けやすいというメリットがあります。
会社の業況が悪くなると、銀行では融資の貸し渋り、貸しはがしなどのリスクもありますが、信用金庫ではそのようなことは少なく安心して借りられます。
預金に関しては、信用金庫は信用組合のような預金の受入れ制限がないため*、より幅広い対象から会員を集めることができ、その資金を会員の融資に回すことができます。
また信用金庫の会員になれば、銀行と取引先の関係より信用金庫、会員間相互の距離が近く、気安く色々な相談ごとに応じてもらえます。
※信用組合では、自社の預金総額の80%以上を組合員から受け入れねばならないという制約があります
信用金庫を利用するデメリット
一方信用金庫を利用するデメリットは以下のようなものがあります。
融資に関しては、信用金庫のほうが銀行より組織の規模が小さく財務体質が弱いので、どうしても貸出金利は割高になる、銀行に比べて融資先1社あたりの受けられる融資額が小さくなるなどの傾向があります。
また信用金庫で口座を作って預金するだけなら会員にならなくていいですが、融資を利用するには必ず会員にならなければならないという制約もあります(会員になるために最低限1万円程度の出資が必要です。追加出資もできますが、出資金は会員脱退時に返却されます)。
その他、信用金庫の弱みとして、信用金庫は地域性が強く全国対応ではないので、信用金庫の取り扱う金融商品やサービス内容によっては顧客が不便を感じることもあります(ATMの設置台数、ネットへの対応力など)。
信用組合の業務範囲
信用組合も信用金庫同様、営業地域が一定範囲に限定されている金融機関です。
そのため業務範囲に関しては以下のような特徴があります。
・預金業務…預金の受入れは原則、組合員に限定される、ただし信用組合として総預金額(預金・定期積金)の20%まで組合員外からの受入れが認められている
・融資業務…原則として組合員を融資対象とする、ただし制限付きで組合員でなくても融資ができる(卒業生金融はなし)
信用組合を利用するメリット・デメリットは以下の通りです。
信用組合を利用するメリット
信用組合は地域密着性が高いので、組合員になれば銀行より融資相談がしやすく、また融資も受けやすくなっています。
また融資の貸し渋り、貸しはがしなどのリスクが少なく安心して借りられます。
さらに信用金庫より組合員になる資格要件が低いので、より規模の小さい事業者でも組合員になれば融資を受けられるなど、メリット多数です。
信用組合を利用するデメリット
信用組合は銀行に比較して規模が小さく経営体力も弱いため、それを反映してどうしても貸出金利は割高になります。
また銀行に比べて1社あたりの受けられる融資額が小さいのもデメリットです。
信用組合は協同組合なので口座を作って預金するだけなら組合員にならなくていいですが、融資を利用するには必ず組合員にならなければならない制約があります。
さらに地域性が強く、全国対応ではないので、信用組合の金融商品・サービス内容によっては顧客が不便を感じることがあります。
このようなデメリットが気になる場合は、銀行と信用組合を併用することをおすすめします。
まとめ
この記事では、銀行と信用金庫等の違いについて、銀行、信用金庫、信用組合を取り上げ、それぞれの違いについて解説してきました。
利用者が法人であれ個人であれ、金融機関取引をするなら自分の状況やニーズに合ったベストの金融機関を選びたいものです。
是非この記事を金融機関を選ぶときの参考にしてください。
参照:
■全国銀行協会
※全国信用組合中央協会と全国信用協同組合連合会は、それぞれ全国の信用組合を束ねる中央組織、系統中央金融機関として役割分担し、相互協力しながら金融業務の補完、業界の信用力の維持向上に努めています。