起業したなら利用すべき創業融資の種類と申請方法

起業を目指している起業家にとって、創業融資がどこでどのような方法で借りられるかは大きな関心ごとです。

また創業融資を借りられたとしても、うまく使いこなすためにはその融資のメリットやデメリットを知っておく必要がありますよね。

さらに創業融資と銘打っていても、起業前にその融資は借りられるのか、起業後いつ頃まで借りる資格があるのかなど、起業家の興味のあるところだと思います。

そこでこの記事では、起業家の関心を踏まえて、創業融資を取扱いしている公的機関の日本政策金融公庫とそれに係る保証行為を行う信用保証協会に的を絞り、それぞれの融資の特徴やメリット・デメリット、申請方法などについて詳細解説します。

まずは国の公的融資機関である日本政策金融公庫(以下日本公庫、または公庫)の創業融資について紹介します。

日本政策金融公庫の申請方法

創業融資を取り扱っている日本公庫にどのように融資を申し込むかというとこれは簡単です。

自社の本店所在地がある地域を管轄している日本公庫の支店に起業家が直接出向いて申し込みします。なぜなら日本公庫の創業融資は公庫による直接貸しだからです。

事前に公庫に電話やメールで申込みに必要な書類を確認のうえ、書類を揃えてから申込みに行けば、何度も出向く必要なく効率の良い申請となるでしょう。

日本政策金融公庫の創業関連融資と特徴

日本公庫が取り扱う創業融資にはどのようなものがあるか、起業家の関心は高いと思います。

そこで対象者別に5~6種類ある創業融資のうち、第二創業等を除き、特に新規で起業予定の方に使える融資のみを一覧表にしてみました。それが以下の4種類の創業融資です。

・新規開業資金(最も幅広い対象者が使える創業融資)
・女性、若者/シニア起業家支援資金(それぞれ年齢や性別など、属性に合った方が使える創業融資、利用できる方には新規開業資金よりおすすめ)
・中小企業経営力強化資金…利用には雇用創出の条件を満たすほか、外部専門家(認定経営革新等支援機関※)の指導助言が必要
・新創業融資制度(オプション、上記各融資制度と抱き合わせ融資が条件、原則無担保無保証対応)

※認定経営革新等支援機関とは、中小企業・個人事業主が安心して経営相談を受けられるよう、専門知識、実務経験等が一定レベルに達している者に対して、国が認定した支援機関のことです。具体的には、地域の商工会議所、商工会、金融機関、公認会計士、税理士、弁護士などが認定支援機関になっています。

【日本政策金融公庫の創業関連融資】

融資制度名申込み対象者融資限度額返済期間(うち据置期間)
新規開業資金新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方7,200万円(うち運転資金4,800万円)設備資金:20年(2年以内)
運転資金:7年以内(2年以内)
女性、若者/シニア起業家支援資金女性または35歳未満か55歳以上の方で、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
中小企業経営力強化資金新事業分野の開拓のために事業計画を策定し、外部専門家(認定経営革新等支援機関)の指導や助言を受けている方
新創業融資制度(オプション)新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方3,000万円(うち運転資金1,500万円)各種制度融資で定める返済期間以内(抱き合わせの各創業融資の返済期間に準じる)

日本公庫の創業融資の特徴は、起業予定の方が創業前の段階から資金が借りられること、及び創業後も7年以内なら同資金を申し込めることです。

特に創業から半年、数年以内は売上げも利益も不安定な時期に当たるため、継続した事業の要となる運転資金の確保は欠かせません。

そんなとき、起業後も引き続き借りられる公庫の創業融資は起業家にとってありがたい存在になるでしょう。

日本公庫創業融資のメリット・デメリット

日本公庫の創業融資のメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット

・申請窓口が多く申込みのハードルが低い

全国に公庫の支店が配置されているので、申込みで苦労は少なく、利用のハードルは低いです。

・低金利で固定の融資が受けられる

一般的な公的融資の特徴は、銀行等の民間融資より融資金利が低く、しかも固定金利であることです(ただし金利情勢により申込時の金利は変動します)。

起業家のようにストレスを多く抱える経営者には、低利かつ金利の変動がない公庫融資は安心して使える融資だと考えます。しかも融資の一定要件が満たせると、さらに金利引き下げが受けられるメリットもあります。

・創業資金の融資実績が多く、審査のハードルが低い

公庫の創業融資は貸出実績の多い融資のひとつです。

それだけに「事業実績もない自分に本当に貸してくれるのか」と不安を持つ起業家でも安心して申込みできるのが日本公庫です。

その結果、審査のハードルも下げることができます(審査が通りやすいという意味でなく、あくまで起業家の審査に対する不安が下がるという意味です)。

・無担保無保証扱いの融資が多い

公庫の融資では無担保無保証扱いの融資が多いです。

たとえば新創業融資制度で借りる場合、法人は単独で融資が受けられ、代表者が連帯保証人になる必要はありません。銀行融資の法人の借入れでは原則、代表者が連帯保証人になる必要があるので、これは起業家にとって大きなメリットです。

・公庫融資が受けられると、銀行等の信用度が上がる

起業家が最初に公庫から融資を受けられると、それは民間金融機関への大きなアピールになります。

銀行もその情報を聞くと「あの事業者は公庫から信用できる先として融資が受けられた」と安心して、自行の融資ハードルも下げてくるからです。

・資金調達の幅が広がり、取引先からの信用度も上がる

公庫からの融資が受けられると会社の資金繰りが安定します。

起業家にとって資金調達の選択肢が増えるだけでなく、金払いが安定するので、取引先からの信用も上がり経営がうまく行くようになります。

・日本公庫の直接融資なので保証協会付き融資より手続きが早い

協会付融資の仕組みは後で詳述しますが、先に結論を書けば、日本公庫は直接融資なので、保証協会付き融資より手続きに要する時間が早いです。

デメリット

・事業実績がないので創業計画書の作成に緻密度が要求される

当たり前のことですが、創業前の起業家の多くは事業実績がありません。

そのため、公庫が融資をするかどうかの判断は、一にも二にも起業家がどれくらい緻密に創業計画書を書き上げ、公庫の審査スタッフがそれに納得するかに掛かっています。

起業家は公庫の用意したひな形を参考にして、税理士等、専門家のアドバイスも受けて、納得が得られる創業計画書を作るようにしましょう。

・公庫の創業融資では必要資金額の1/10の自己資金が要求される

公庫の創業融資では起業に係る資金総額の1/10の自己資金が要求されます。

一方協会付き融資には自己資金について特段の指定はありません。そういう意味ではこれはデメリットのひとつです。

ただし以前は公庫ではもっと多く自己資金が要求されていたので、現在は1/10まで条件が緩和されており、その経緯を考えれば良しとしなければならないでしょう。

・返済を遅らせると追加融資が困難になり、資金調達の選択肢が狭まる

仮に創業融資が受けられたとしても、資金繰り及びその他の理由を問わず、公庫に対するその後の返済を絶対遅らせてはいけません。

日本公庫は起業家に対する融資は弾力的でも、その後の返済の遅れまで寛大ではありません。勝手に返済を遅らせたら追加融資には絶対応じてくれなくなります。自ら融資の窓口を減らすことにもつながるので、そのようにならないよう確実な返済を心がけて下さい。

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保証協会の融資と特徴

次に、地方自治体や金融機関と連携して融資を取扱っている信用保証協会の創業融資について紹介します。

信用保証協会付き融資の申請方法

次は信用保証協会付き創業融資の申請方法についてです。

信用保証協会は事業者の信用を保証行為によって補完する公的機関なので、直接融資する機関ではありません。そのため創業融資の申込みルートは二つあります。

ひとつは事業者の本店所在地にある信用保証協会に起業家が直接出向き保証相談することです。保証協会の審査スタッフが対応してくれて、必要なら地域の金融機関を融資窓口として紹介してくれます。

もうひとつのルートが、起業家が地域の金融機関を訪れて保証協会付き創業融資を申し込む方法です。いわば間接的な申込み方法といえます。

実際多くの事業者は後者の間接ルートを使って保証協会付き融資を利用しています。

信用保証協会付き創業関連融資の特徴

信用保証協会付き創業関連融資については、主に2つの利用方法があります

1.都道府県、または市町村単位で、信用保証協会が民間金融機関とタイアップした創業融資を受ける
2.制度融資と呼ばれる仕組みを利用して、地方自治体の斡旋を受けて、保証協会付き創業融資を受ける

上記の各方法を踏まえて、使える創業関連融資を一覧にしたのが下記表です。

・県創業融資(地域の金融機関が融資窓口)
・制度融資(創業資金)…地方自治体が金融機関に起業家を推薦、信用保証協会の保証を得て、銀行等が融資実行

【県創業融資の概要…例:神奈川県信用保証協会付き創業支援融資】

制度融資名融資限度額返済期間(うち据置期間)貸付利率保証料率
県創業支援融資3,500万円(開業前の場合、2,000万円まで自己資金の制限なし、2,000万円を越える分は自己資金と同額の範囲内)運転資金及び設備資金1年~10年(うち1年)1.8%以内0.40%

【制度融資(創業資金)…例:東京都】

制度融資名申込み対象者融資限度額返済期間(うち据置期間)
創業融資(対象1:創業前)事業を営んでいない個人で、1ケ月以内に新たに個人で、または2ケ月以内に会社を設立して東京都内で創業する予定の方
(対象2:創業後)創業した日から5年未満である中小企業者及び組合(個人で創業し、同一事業を法人化した方で、個人で創業後5年未満の方も含む)
(対象3:分社化)詳細省略
3,500万円
(融資対象1は自己資金に2,000万円を加えた額の範囲内)
運転資金:7年以内(1年以内)
設備資金:10年以内(1年以内)

信用保証協会付き創業融資のメリット・デメリット

信用保証協会付き創業融資のメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット

・申請窓口が多く申込みのハードルが低い

信用保証協会の相談窓口も最低各県に1支店は配置されているので、日本公庫と同じく、申込みのハードルは低くなっています。

ただし保証協会の支店は県庁所在地がある場所に設置されていることが多く、それ以外の地域から直接相談に行くには不便なケースも想定されます。

その場合は住所地の近くの金融機関(個人で取引している金融機関ならなお良し)経由で信用保証協会に申し込む方法が時間も節約できて効率的です。

・信用保証協会の保証が受けられ銀行融資の垣根が下がる

信用保証協会の役割は、社会的信用力に乏しい中小企業・個人事業主に保証を行うことで、銀行等の融資を受けやすくすることです。
協会が信用保証することで銀行融資のハードルが下げられます。

・地方自治体の制度融資(創業資金)が受けられると利子補給、保証料補助がある

地方自治体の制度融資が受けられると利子補給、保証料補助も受けられます。

自治体により利子補給や保証料補助の額や支給期間には差がありますが、それでも起業から1年くらい、利子や保証料が税金から補填されて無料になる先が多いです。

起業時点から一定期間、売上げや利益が不安定な起業家にとって、これは大きなメリットになります。

デメリット

・信用保証協会の保証に対して保証料がかかる

日本公庫の創業融資は直接貸しなので金利以外のコストは掛かりませんが、信用保証協会付き融資の場合、金融機関への金利支払い以外に、保証協会に対する保証料の支払いがあります。これはその分、融資全体のコストが上がるのでデメリットです。

・保証付き融資の仕組みの分だけ、日本公庫の融資より手続きが遅い

公庫の創業融資の当事者は起業家本人と日本公庫の2者です。

一方、保証協会付き融資の当事者は起業家、金融機関、信用保証協会の3者に加えて、制度融資を借りる場合は地方自治体まで加わってきます。融資や保証の仕組みが複雑になる分、保証協会付き融資は公庫融資より手続きが遅くなります。

創業融資の場合、日本公庫の融資で1ヶ月程度、一方保証協会付き融資ならさらに長くなり最長で2ヶ月くらい掛かると思っておいて下さい。

・法人が借入れる場合、連帯保証人として代表者が必要

日本公庫は法人が借入先でも代表者が連帯保証人になる必要がない場合が多いですが、保証協会付き融資では法人が借りる場合、原則、代表者が連帯保証人にならねばなりません。

起業家に心理的負担が増す分、これも一種のデメリットといえます。ちなみに個人事業主は公庫、協会付き融資とも原則、連帯保証人は不要です。

・創業融資に関しては日本公庫ほど融資姿勢が積極的でもない

最近は傾向も変わってきてそれほどでもないですが、創業融資に関して、信用保証協会は日本公庫ほど積極的でない期間が長くありました。

その結果、融資実績も少ないし、1社当たりの融資額も低くなる傾向が強いです。

特に地方自治体の制度融資(創業資金)は、金融機関への預託金に限りがあり、一方借りたい希望者は多いので、その分、1社あたりの融資額も低くなります。

創業融資をできるだけ多く借りたい方にはこれはデメリットです。

まとめ

創業融資の種類と申請方法として、日本政策金融公庫融資と信用保証協会付き融資に的を絞り解説してきました。

起業家にはそれぞれの融資のメリット・デメリットをよく理解して、導入時期のタイミングを計り、是非うまく活用していただきたいと思います。