金融検査マニュアル廃止で令和の融資はどう変わる?

金融検査マニュアル廃止で令和の融資はどう変わる?

長年、民間金融機関の融資債権に係る金融庁検査の手引書にされてきた金融検査マニュアルが2019年12月に廃止されました。

ではなぜ金融検査マニュアルが廃止されたのでしょうか、またその背景とはなんでしょうか?

この記事では、金融検査マニュアル廃止の理由、そもそも金融検査マニュアルとはどのようなものなのか、廃止により金融機関の融資行動にどのような変化が期待されているのかなどについて解説していきます。

この記事を読んで、今後の金融機関の融資姿勢がどのように変化するのか、その方向性を掴んでおくようにしましょう。

金融検査マニュアルとは、金融庁が指導監督下にある各金融機関の検査を行うときの手引書のことを言います。

これまで金融庁は監督官庁として、金融機関に対して定期的に検査を行ってきており、その際の指針に使われてきたのが金融検査マニュアルでした。

また検査を受ける金融機関側も、金融検査マニュアルに沿って必要書類を作成し、社内体制を整え受検してきました。

金融検査マニュアルが使われてきた背景

金融庁が金融検査マニュアルを作り、検査時の指針に使ってきたのには過去の大きなできごとが背景としてあります。

金融検査マニュアルが作られた1998年当時、金融機関はバブル経済に興じて業績拡大一辺倒で、十分な担保も取らず融資拡大に走っていたため、その後のバブルの崩壊で一挙に不良債権の山を作って経営状態が悪化してしまいました。

当時、北海道拓殖銀行や山一証券などが連続で経営破綻して、融資を継続することが難しくなり、取引先に連鎖倒産のリスクが高まったために、金融庁が急きょ各金融機関の指導監督に入らざるを得なくなったのです。

そのとき金融庁の指導の指針に使われたのが金融検査マニュアルで、金融機関の不良債権処理を急がせて、急激に経済環境が悪化するのを避ける狙いもありました。

金融検査マニュアルがもたらした副作用

ただ国があまりにも経済危機を早く収束させようとしたため、金融検査マニュアルは別の副作用を金融機関にもたらせてしまいました。

つまりこのできごと以降、金融機関が融資リスクを避けて担保や保証に頼る画一的な融資に走ってしまうという副作用ももたらし、それが2000年代以降、民間金融機関の基本的な融資姿勢として長らく定着してしまう結果にもなりました。

次章からは検査マニュアルに基づく金融機関の事務処理でもある、「債権分類基準」に基づく自己査定とはどのようなものかについて解説していきます。

金融検査マニュアルに基づく金融機関の自己査定とは?

金融機関が金融庁から定期検査を受けるとき、その金融機関は事前に検査マニュアルの「債権分類基準」に基づき自己査定を行って検査書類を準備しておかねばなりません。

自己査定とは、金融機関が自社の融資債権を自ら査定して、債務者を各々の財務内容に応じて正常先、要注意先~破綻先までの6つに区分、さらにその債権を回収の可能性ごとに4つに分類して、最終的に必要な償却額や貸倒引当金額を決める手続きを言います。

なぜなら金融検査マニュアルは、金融機関の経営健全化のため、融資先の債務者区分に応じて貸倒引当金を計上することを求めているからです。

そして自己査定で算定された結果を、当該金融機関の意見も聞いて、最終確定するのが金融庁による本検査ということになります。

一方この貸倒引当金は金融機関にとって会計上のコストになるため、低く査定された融資先にとっては都合の悪いことも起こりました。

どういうことかというと、金融機関にとって、財務状態が悪いまたは収益力の低い融資先、あるいは保全状態の弱い融資先等にお金を貸していれば、自己査定の結果も悪くなって、それだけ貸倒引当金を多く積まねばならず、最終自行収益の圧迫要因になります。

そのため、金融機関としては融資先の財務状態等が悪くなると、自行の利益を優先して、いきなり貸し渋りや貸し剥がしという行動を取ったり、あるいは担保や保証人の追加を求めたりと、融資先の都合を無視する弊害が目立つようになってきたのです。

自己査定の手続きの流れ

ここで金融機関が行う自己査定の手順を簡単に見ていくことにしましょう。

金融機関では金融検査マニュアルの「債権分類基準」に基づき、各債権を以下のような順番で査定していきます。

手順1…自社の債権を査定、債務者を「財務内容」に応じて、正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先に区分
手順2…さらに債権を「回収の可能性」ごとにⅠ~Ⅳに分類
手順3…これらの債権分類基準に基づき、償却額・引当金所要額を算定

債権分類基準表とは以下のような表を言います。

金融検査マニュアル廃止で令和の融資はどう変わる?

なお正常先、要注意先等、各定義がありますがここでは省略します。詳しくは以下の金融庁のサイトを参照してください。

金融庁 – 「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(案)の概要

自己査定の結果、その融資先が正常先、あるいは要注意先の範囲に分類がとどまっていれば、新規融資や追加融資を依頼するとき、あまり懸念する必要はないですが、要管理先以下、またはⅢ(第3分類)以下に自社が分類されてしまうと融資が厳しくなり、最悪、融資が受けられなくなります。

金融検査マニュアルの廃止について

金融検査マニュアル債権分類基準に基づく自己査定がどのように行われてきたか、おおよその流れは理解していただけたと思います。

ではどうして金融検査マニュアルは廃止されたのでしょうか?その理由は以下の3つに集約することができます。

①金融業界ではバブル崩壊後の不良債権がすでに一掃され、各金融機関ともほぼ健全な資産状態に回復したことから、金融検査マニュアルの当初の目的がすでに失われていること
②多様化している経営悪化要因に対して、現在の金融機関の融資モデルが適切に対応できていないこと
③金融機関ごとに確立されているビジネスモデル(メガバンク、地銀、信用金庫等)が、金融検査マニュアルに基づく「画一的な」検査基準とかなりずれているため弊害が目立つこと

これらの理由を背景として金融検査マニュアルの廃止が決まったのです。

金融検査マニュアル廃止の流れを時系列に整理すると以下のようになります。

<2018年6月>
・金融庁の組織改編で金融検査局が廃止され、金融機関への「立ち入り調査権」含む業務を監督局に統合
・銀行の企業統治(ガバナンス)の点検などは新設の「総合政策局」が担当
・また新しい検査・監督の考え方と進め方を整理した「検査・監督基本方針」を公表
・段階的に分野別の新しい基本方針を策定しつつ、2020年4月1日以降、金融検査マニュアル廃止後の対策を実施することが基本方針に明記された

<2019年12月>
・従来の金融検査マニュアル廃止

<2020年4月>
・金融検査マニュアル廃止後の対策実施

金融検査マニュアル廃止で融資はどう変わる?

では金融検査マニュアルを廃止することで、今後、金融機関の融資はどう変わるのでしょうか?また金融検査マニュアルに代わる何かほかの検査基準が金融庁から示されるのでしょうか?

この章では金融検査マニュアル廃止後の動向や金融機関の対応について解説します。

金融機関の融資姿勢は「実績・担保主義」から「事業性評価」に変化していく

金融検査マニュアルが廃止されると、今後は、金融機関自ら、経営理念や融資方針を策定して、融資先の将来を見通した引当処理ができるようになります。

つまり従来の融資先の財務内容、担保や保証に一辺倒に頼る融資態勢だけでなく、企業の持つ潜在的成長性、将来のキャッシュフローに基づく返済能力にも注目して融資決定するよう対応を変えていくでしょう。

これを「事業性評価」と言います。

いわば、過去の実績や担保主義に基づく融資対応から企業の将来性に軸足を移した融資対応になるということです。

これまでのやり方では、正常先、要注意先は過去の実績から予想される損失を出したり、また要管理先、破綻懸念先等は個々に回収不能額を見積もりしたりして、それぞれ償却額、引当額を出して対応してきました。

また融資先が特別な理由で一時的に赤字に転落しても、債務者区分の悪化等を理由に、急に金融機関が融資を貸し渋るなど、企業サイドから見ると納得いかない行動もありました。

しかしこれでは経済環境の激変で金融機関の収益力も落ち、ビジネスモデルも大きな転換を迫られている中、従来の方法では対応できなくなってきているのが実態です。

これからは金融機関がそれぞれ独自の経営戦略を立て、企業の持つ長所や特性を理解して、それに合わせた融資を行っていかねばなりません(繰り返しになりますがこの方法を事業性評価と言います)。

その結果、たとえば、融資先の業績が現在堅調に推移していても、金融機関が将来発生するリスクを見越してこれまで以上の引当金を積むようになるかも知れないし、現状融資先の利益が赤字でも、その企業に金融機関が将来性ありとみて、逆に融資額を増やすような行動を取るかも知れません。

金融庁もまた、金融機関の新しい動きに合わせて、産業別、地域別により細かくリスク評価できるよう、金融機関を検査・指導監督していくと言っています。

このように金融検査マニュアル廃止後は金融機関の融資行動に大きな変化が起こる可能性が高いのです。

検査マニュアル廃止後、立ち入り検査はどうなる?

検査マニュアル廃止後、従来実施されていた金融庁による立ち入り検査はどうなるのでしょうか?

結論から先に述べれば、引き続き金融検査は金融庁監督局が実施の予定です。

新しい指導方針に沿って、より各金融機関の実態に即した検査が行われることでしょう。

ただし監督局の金融検査の姿勢は、これまでの金融局の「検査・懲罰型」から「対話・経営改善型」へと関わり方が大きく代わる見込みです。

自己査定の査定基準は変わるのか?

検査マニュアル廃止後、自己査定の査定基準は、これまでの金融検査マニュアル債権分類基準から、金融機関が独自に作った自己査定基準、償却・引当基準に引き継がれる形で実務は進んでいく予定です。

そのため、これまで金融機関は、過去の引当実績や決算書に基づく定量・定性情報の分析から引当額を見積もってきましたが、これからは融資先の将来のリスクも含めて引当に反映していくことになります。

その際には、現在融資先が赤字とか債務超過というだけでマイナス査定するのでなく、今後はその企業の特性、将来性も織り込んだ査定判断が必要になってきます。

まとめ

民間金融機関には、メガバンク、地銀、信用金庫等、異なるビジネスモデルがあるので、本来なら各金融機関、独自の経営理念や経営戦略に沿って自己査定することが大切なはずです。

しかし1999年からこれまで、金融検査マニュアルに沿った画一的な検査が優先されてきた結果、金融検査マニュアルの当初の目的と金融機関の実態とがかなり合わなくなってきていました。

そして最も被害を受けたのは、現在成長ステージで将来性もあるのに、利益の一時的赤字から画一的検査で融資が受けられなかった取引先などでした。

でも今後は、現状財務状況が悪くても、金融機関に成長の可能性が高い企業、特定分野に強い企業だと認めさせることができれば、金融庁の重しが取れた分、融資が受けられる可能性が高くなります。

金融検査マニュアルの廃止にはそのような大きな意義があるのです。