ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの調達に次ぐ、第三の資金調達手段として注目を集める、「株式投資型クラウドファンディング」。
日本でも株式投資型クラウドファンディングを利用するベンチャー企業は増加基調にありますが、グローバルに見るとイギリスやアメリカでは日本以上に株式投資型クラウドファンディングを通じた資金調達が一般的となっています。
今回は、海外の株式投資型クラウドファンディングに関する情報をご紹介します。当記事では特にアメリカの株式投資型クラウドファンディングに焦点を当てていきます。
※記事の中では、1ドル=110円で換算しています。
目次
株式投資型クラウドファンディングとは?
「株式投資型クラウドファンディング」は、略称「株式投資型CF」や「ECF(Equity Crowdfunding)」などとも呼ばれ、その名称の通り、株式投資によるクラウドファンディングのことを指します。
株式投資型クラウドファンディングについては、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
【起業家向け】株式投資型クラウドファンディング(ECF)で資金調達する5...
アメリカの株式投資型クラウドファンディングに関する制度
アメリカでは、中小企業やベンチャー企業の資金調達を促進する目的で、オバマ政権時代の2012年4月5日にJOBS(The Jumpstart Our Business Startups)法が制定されました。
JOBS法制定の背景としては、アメリカにおけるIPOの減少が挙げられます。(詳細は下図)
JOBS法によって設けられたルール
JOBS法では、企業、投資家それぞれに対して以下のルールが設けられました。(JOBS法の中でも「クラウドファンディング条項」と呼ばれる条項のみに言及。)
調達する企業に関するルール
・株式投資型クラウドファンディングで資金調達を行う場合、12ヶ月の期間中に500万ドル(5.5億円)*まで資金調達を行うことが可能。
※法改正によって2021年1月から最大500万ドルとなった。それ以前は107万ドルであった。
投資家に関するルール
・投資家の条件に応じて年間投資可能額を制限。
①年収/純資産額の両方が約1,100万円以上の投資家の場合
年収/純資産額のいずれか少ない方の10%が年間投資可能額となる。
※ただし、12ヶ月の期間中に約1,100万円を超える投資はできない。
②その他の投資家の場合
年収/純資産額のいずれか少ない方の5%、もしくは約22万円の多い方が年間投資可能額となる。
各国の株式投資型クラウドファンディング制度の特徴
上述のアメリカのルールは、他国の制度と制限する条件が異なります。イギリス、日本を例にその違いを簡単に以下にまとめました。
「アメリカ」
・誰でも投資はできるが、年間投資可能額に上限がある。
「イギリス」
・条件をつけることで投資可能な投資家を限定する。
「日本」
・1社につき年間50万円まで投資が可能。
イギリスは投資家を制限している一方で、アメリカは上限額を設けているので、条件は異なります。
また、アメリカと日本は上限を設定している点では類似していますが、アメリカが12ヶ月間の投資の上限に対して、日本は会社ごとに上限を設定しているので、似て非なるものです。
アメリカにおける株式投資型クラウドファンディングの市場規模
アメリカにおける2020年の株式投資型クラウドファンディングの実績は、調達金額約236億円、調達企業数1,035社となっています。2019年は調達金額約116億円、調達企業数735社で、前年に比べ大きく増加しています。
出典: crowdwise “2020 US Equity Crowdfunding Stats – Year in Review”
アメリカの代表的な株式投資型クラウドファンディング事業者
下図はアメリカの株式投資型クラウドファンディング事業者別の2016年から2020年までの調達金額グラフです。
上位3つの事業者に集中しており、さらに上位の事業者が下位の事業者を買収するなど業界の再編が進んでいます。
出典: crowdwise ”Top 10 Equity Crowdfunding Sites – 2020”
アメリカの株式投資型クラウドファンディング市場には60社以上の事業者が存在しており(2021年1月時点)、競争環境は激しくなっています。そのため、他社と異なる料金体系の採用や領域特化するなど、独自戦略をとることで差別化を図る事業者も登場しています。
アメリカの代表的な3つのプラットフォーム事業者であるWeFunder、StartEngine、Republicの概要についてまとめました。
1.WeFunder(ウィファンダー)
■設立
2012年
■累計調達社数
1,447社(2021年3月時点)
■累計調達額
約274億円(2021年3月時点)
■特徴
・5万ドル〜500万ドル(550万円〜5.5億円)が調達可能金額
・WeFunderを通じて投資した株主はすべてSPV(特別目的会社)に集約される
・WeFunderで資金調達した企業はその後の資金調達総額は50億ドル(5,500億円)
→次回調達へと着実に成長している企業が多い
2.StartEngine(スタートエンジン))
URL: https://www.startengine.com/
■設立
2011年1月
■累計調達社数
500社(2021年3月時点)
■累計調達額
330億円(2021年3月時点)
■特徴
・StartEngineで調達した企業の50%がStartEngineを複数回利用している
・自社でセカンダリーマーケット(流通市場)を持っている
・「StartEngineオーナーズボーナス」という会員ビジネスを行っている
→年間275ドル(30,250円)で、投資の優先権や手数料割引などの会員特典を受けられる
3.Republic(リパブリック)
URL: https://republic.co/
■設立
2016年
■累計調達社数
250社(2021年3月時点)
■累計調達額
165億円(2021年3月時点)
■特徴
・平均調達金額は50万ドル(5,500万円)
・2016年以降の調達成功率は90%を超える
・RepublicはAngelListからのスピンオフ
まとめ
アメリカにおける株式投資型クラウドファンディング市場を見ると、日本以上に競争環境が激しく、その中でベンチャー企業に選ばれる事業者の選別が進んでいます。
さらにアメリカは制度変更の動きが早く、市場環境の整備が確実に進んでいるように思われます。
もともと日本において金融商品取引法改正で制度化された株式投資型クラウドファンディングは、アメリカのJOBS法が参考にされました。
スタート時点で参考にするだけではなく、今後の市場拡大に向けた法整備においても、アメリカ含め海外の株式投資型クラウドファンディング制度を参考に制度が変更されれば、より良い環境作りができるものと期待されます。